「ああ、俺も最後まで諦めない」

その手を――奏多はしっかりと掴む。繋がれた手の温もりが優しく溶け合っていく。
ありふれたこの瞬間こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。
二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。
しかし――

一族の上層部が犯した罪過への『破滅の創世』の憤懣。
ましてやそれが延々と折り重ねった憎しみに起因するものであるならば、尚更だ。

内側から湧き上がる『破滅の創世』としての意思は、俺の意思を何度も飲み込もうとする。
必死に踏ん張っても、意識が朦朧(もうろう)してくる……。

『破滅の創世』である奏多であればこそ、その怒りを身に染みるほどに理解している。
何度も神としての憤りに――絶望視した過去に囚われてしまうかもしれない。

それでも……諦めたくない。
結愛と……みんなと共に生きたいから。

奏多は現実で踏ん張ると決めている。
現実で乗り越えてきた道を否定なんて出来ないのだから。

「悪いが、奏多もカードもおまえらに渡すつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」

そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
絶え間ない攻撃の応酬。
だが、弾はアルリットに命中する前に全て塵のように消えていく。
しかし、その間隙を突くように、戦車部隊はアルリットを包囲した。

「――うん、あたし達を個別に包囲して、分断させるつもりみたいだね」

アルリットは自分を取り囲む戦車部隊を見る。

「下らないことをするね。『境界線機関』の人間は」

アルリットはそう言うと軽く手を振りかざした。

「ぐわっ!」

その一振りだけで、包囲陣を築き上げていた戦車部隊は破壊され、『境界線機関』の者達の命をいとも簡単に奪っていく。

「ねー、『境界線機関』のリーダーさん」
「――っ」

アルリットの目に宿った殺意から、司は敢えて視線を逸らした。
殺意の一言で説明できないほど、その感情は深く深く渦巻いていたから。

「死ぬなよ」

慧の心からの願い。
その眼差しはまっすぐで、強い意志の光に満ちていた。

「当たり前だ。ここで死ぬつもりはない。おまえ達こそ無理はするな」

それは司とて同じ。慧達に対して同じ想いを抱いている。

「……まぁ、今の俺達のやるべきことは一つ。ここを凌ぐことだけさ」
「そうだな……」

慧と司は瞳に意志を宿す。『破滅の創世』の配下達の、そして一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。決して譲れない想いがあった。