「私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きです!」

結愛が立ち向かうにはあまりにも強大な敵。それに全ての発端は強大な力を求めた一族の愚かな渇望だ。
相手の言い分が正しいことも理性ではきちんとわきまえている。しかし、それでも感情で納得できるかはまた別の話だった。

「だから、この世界で奏多くんと一緒にずっとずっと生きていきたいです! 奏多くんと同じ光景を――明日に繋がる未来を見たいから!」

結愛が示したのは希望という名の確固たる意思。決して変わることのない願いだった。

「人の子よ。神にそのような感情を抱くなど、無為だ。……それでも貫き続けるというのなら……死せよ塵芥、この場で消し飛ばす」

結愛には……悲鳴の声の一つすら上げる時間は与えられなかった。
その前にヒュムノスが招いた致命的な雷撃が結愛へと放たれたからだ。
だが――

「……っ」

次の瞬間、結愛の視界は一変していた。

「……あっ」

結愛の前に、いつの間にか手をかざした奏多が立っている。
雷光の遠撃。それは寸分違わず結愛に迫った、はずなのに。それなのに――

「……奏多くん」

ヒュムノスの十全以上の精度による攻手。しかし、それによって伴われる絶大なる威力は結愛に与えられることはなかった。
膨大な雷撃が結愛に命中するその寸前に、奏多が片手でそれを容易く弾いてしまったからだ。

「……何だ、これ?」

奏多は攻撃を弾いた自分の手を見つめる。
それは神の御技(みわざ)
奏多の手で燃えさかる炎はさながら、万物の始原に在ったという伝説のそれにも見えた。

「……奏多が神の力を行使できているのか。『破滅の創世』様の『記憶のカード』が、この近くにあるのは間違いないな」
「そうね」

慧の確信めいた言葉に、観月は同意しつつも不安を零す。

「でも、神の力を行使できる今の奏多様が……もし、完全に『破滅の創世』様の記憶を取り戻そうとしたら――」

その事実は観月の心胆を寒からしめた。
『破滅の創世』の配下達は誰よりも何よりも、一族の者に激しい悪意と殺意を振りまいている。
とはいえ、少なくとも今は、『破滅の創世』の配下達は奏多の意思を無視して強引に連れていくことはない。
だからこそ、それを確実に成し遂げるために、カードを手に入れて『破滅の創世』の記憶を完全に取り戻そうとしている。
それが今の戦場の様相。
だが、そこに奏多の――『破滅の創世』の神意を加味すれば、最悪の事態が待つ。

「それが何を指していようともな」

それでも慧は握る銃の柄に力を込める。視線を決してアルリット達から外さずに弾丸を撃ち込む。

「……まぁ、今の俺達ができることは二つ。彼らがここに来るのを待つこと、そして奏多を信じることだけさ」
「……そうね。私も奏多様を信じるわ」

世界への影響を止めるためにも、アルリット達をこの場に留める……それが、今の慧と観月にさし迫りし事態であった。