迫り来るのは神獣の軍勢。
軍勢の行く先、部隊の者達は必死の抵抗を繰り広げていた。

「ここで何としても食い止めるぞ!」

死と隣り合わせの戦場から得られる経験は、訓練とは違った恐怖を伴うものであるが故なのだろう。
生き残らねばという執着が部隊の者達を支配していた。
それは消極的なものではなく。むしろ闘争心に火をつけるものであった。

「結愛、こちらに引きつけよう!」
「はい、奏多くん!」

幾度も生じる猛撃。奏多は意識を取り戻した結愛とともに力を振り絞っていた。
とはいえ、一族の者達側の戦力は確実に減っている。

「また、慧にーさん達の攻撃を無効化したのか……?」
「ほええ、最悪です。皆さんの総攻撃が効いていないですよ!」

奏多と結愛がじわじわと押し込まれていく中、神獣の群れの連携攻撃は徐々に苛烈さを増していく。

滅びに瀕した世界。

『破滅の創世』の配下達との戦いはこの世界に未曾有の惨事を引き起こした。
激闘の終結後、残された傷は深く易く癒えるものではないのだろう。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界に滅びをもたらす存在で在り続けていた。

「このままじゃ……」
「はううっ、包囲されちゃいます」

奏多と結愛は窮地に立たされた気分で息を詰めたが、慧が意味深に人差し指を立てる。
ジェスチャーの意味は『静かに』。
そのとおり、黙った奏多達を確認すると慧は次いで小声で囁いた。

「……心配するなよ、ここを凌ぐためのアテはあるぜ」
「慧にーさん……」
「……ほええ、凌ぐためのアテ?」

それはただ事実を述べただけ。しかし、慧の言葉は、奏多と結愛には額面以上の重みがあった。

「今まで『破滅の創世』の配下達が目的を果たせなかったのには理由がある」
「理由……?」

確かめるようにつぶやいてから、奏多の眸が驚きの色に変わる。
違和感を感じた、といえば簡単なことだが、慧の表情には確信めいたものがあった。
ここを凌げば、勝機が見えると――

「『破滅の創世』様の神としての権能の一つである神の加護を一族の上層部が有している今、『破滅の創世』の配下達は同じ地に長時間、留まることはできない」

神のごとき強制的な支配力。
一族の上層部が有しているその絶大な力は天災さえも支配し、利用することができる。
それは『破滅の創世』の配下達を同じ地に留めないようにすることも可能だ。
ならば、それまで凌げば、『破滅の創世』の配下達はこの地から去っていくだろう。
全てが一族の上層部の思惑どおりに――。

「だが、このままで終わらせるつもりはないぜ」

慧は決意を示すように言葉を切った。
自分を蘇えらせて不死者にして利用したのは誰なのかは判明していない。
観月は一族の上層部に逆らうことができない理由がある。
そして、一族の上層部の企みもいまだ不明のまま――。
それらの問題を解消する手立てはあるものの、まだ必要な戦力を見込めていない。
しかし――彼らが反撃の一手を打つ手段は残されていた。

一族の上層部が有している神の加護は、同じ一族の者には効果は及ばないのだから――。