『破滅の創世』の配下達との戦闘による惨状は想定以上だった。
瓦礫は戦火で一部煤けており、学園近辺に広がっていたグラウンドは戦闘の後で荒れている。
それでも戦闘は激しいものになっていた。一族の上層部側も相当な戦力を投入していたことが伺える。

「『破滅の創世』様……!」
「おっと、それ以上は行かせねえぜ!」

そう吐露したリディアの前に慧は立ち塞がる。

「奏多、ここは任せな!」
「慧にーさん……!」

慧は奏多が結愛達を救助する猶予を作るようにリディアに向けて発砲した。
弾は寸分違わず、リディアに命中するが、すぐに塵のように消えていく。
先程の混乱に乗じて駆けつけた増援部隊も激しい猛撃によって壊滅状態。既に混乱の最中にある。

「怯むな、突撃!」

だが、それでも得物を手にした兵達が次々に突撃を敢行する。

「愚かなものだ。このようなものでわたし達を倒せると思っているとは。人の行動は理解に苦しむな」

リディアは忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。
ただ、終わりに向けた進軍を続けている部隊を。

「もちろん、倒すことが目的でないさ。ここで食い止めることだ!」

そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、弾は全て塵のように消えていく。

「無意味だ」

そう断じたリディアの瞳に殺気が宿る。
深遠の夜を照らす満天の月のような――流麗にして楚々たる容貌は僅かも曇らなかった。
『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。神敵であると。

「それでも止めるさ。たとえ、それが無意味なものだとしても……」
「これ以上、進ませないわ!」

決定打に欠ける連撃。
それでも慧は怯むことなく、観月と連携して次の攻撃に移った。

「あたし達がするべきことは『破滅の創世』様の望むこと。この世界にもたらされるべきは粛清だよ」

そう宣言したアルリットは神の鉄槌を下そうとする。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。
『破滅の創世』の奪還のために、一族の者達を相手取る戦いは世界各地で続いている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界にとっての最大の敵で在り続けていた。

「厄介なこと、この上ないな」

帰趨(きすう)の見えない状況に、慧は考えあぐねる。
『破滅の創世』の『記憶のカード』の防衛を最重要視せねばならないが、そのカードが何処にあるのか、先手を打とうとも後手に回ろうともはっきりとしたことは分からなかった。