生まれた子に罪はない。
最初は一族の上層部もそう思っていた。
しかし、彼らは改めて『ある』と判断したのだ。
原罪とも言える先天的な悪性。
生まれない方が良かった『いのち』というものが。

始まりの記憶なんてものはなかった。
その稚児に一族の上層部からの美しい喝采なんてなかった。温かな祝福なんてなかった。ただ、狂気と感情が入り乱れた坩堝だけ。

「残念ながら、この子の身体では『破滅の創世』様の神魂を受け入れることはできません。もって数年の命でしょう……」

それは医師からの余命宣告。

「――なんということだ」
「忌まわしい……」

その稚児は生まれつき病弱だった。『破滅の創世』の神魂の具現として生を全うするだけの力はなかった。

「これではいずれ、この子自身の身体が内実する膨大な力に耐えきれず、その命は失われてしまう」

それが何時なのかは誰にも分からない。けれど、その命がいずれ失われることが分かっている以上、何らかの対策を講じなくてはならなかった。
人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用するという一族の悲願を果たすために。

「新たな器が必要だ」

一族の上層部はそう結論付けた。

「それまでこの子は普通の子として育てよ。決して『破滅の創世』様の神魂の具現だとは口にしてはならぬ」

虚実をない交ぜにし、知られたら都合の悪いことを伏せながら、一族の上層部の者は事の経緯を夫婦に説明した。
真実と詭弁が入り混じった内容。その過程で発生する問題は一族の上層部がもみ消している。

「初めまして」
「ふふ、産まれてきてくれてありがとう」

その子の家族は産まれた子が普通の子だと思っていた。
母親は『破滅の創世』の神魂の具現を出産する候補者の一人だったが、彼女では一族の悲願である『破滅の創世』の神魂の具現を産むことができなかったと伝えられたからだ。
一族の上層部の悲願。それを人が『悪辣』と表現するのならきっとそうだろう。
だからこそ――

「もし、あのまま弟が生きていたら……俺と――は……『今も』兄弟だったんだろうな」

そんな願いを(あに)が抱いたのは当たり前のことだった。

『どんどん大きくなるな、慧と――は』
『ふふ、本当ね。このまま――がずっと生きていてくれて家族四人で過ごせたら何もいらないわ』

優しげな父親と母親の声が蘇ってくる。
それは弟がいた時の優しい世界。家族で幸せを享受していた時の穏やかな記憶。
弟が亡くなった今、あの日々は二度と戻らない。
だから何度も、何度も繰り返した。慧は想像を積み重ねてきた。弟との仮初めの未来を。

兄弟としてすごした日々――。
もう永遠にその関係は失われたと思ったから――。