神奏のフラグメンツ

「なっ! 俺たちの周りにも、魔法陣が……?」
「ほええ、最悪です! 既に発動していますよ!」

奏多と結愛の声に呼応するように、地面に光が浮かび上がった。
指先に力が集まり、やがて円形の魔法陣が形成される。
それはゆっくりと回転し、解けていく。

「ちっ、そういうことか!」

あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、慧は大きく目を見開いた。

「どういうこと……?」
「司が不在の間、『境界線機関』の者達は、この地を新たな拠点の一つにしていた」

話の全貌が掴めない観月に応えるように、慧は不敵に笑う。

「つまり、司がいない間、一族の上層部の者達がこの地に出入りして、緊急脱出装置を設置していた可能性があるってことさ」
「……それって、基地本部の時と同じように、『境界線機関』を監視する、一族の上層部の内密者が入り込んでいたってこと?」

観月が促すと、慧は薄く笑みを浮かべる。

「ああ。一族の上層部の者達は既に、緊急脱出装置をこの地の様々な場所に仕掛けていた。そして、ヒューゴ達は、この基地にある緊急脱出装置の位置を把握していたんだろうな」

慧が示した言葉、それが答えだった。

一族の上層部の今回の最優先事項は、暴動を止めるために、奏多様とそのご家族の身の安全を保証――。

しかも、今は奏多達はヒューゴ達が仕掛けた緊急脱出装置の魔法陣の上にいる。
だからこそ――。

「『破滅の創世』様……!」

レン達が動く前に、颯爽とその場から姿を消すことができた。





「レン。一族の上層部の者は、本当に面白い能力や仕掛けを持っているようじゃな。それに随分、いさぎよいのう」

ベアトリーチェは自身の置かれた状況を冷静に分析する。

「しかし、こうもあっさりと逃げられるとは、わらわもまだまだかのう」

その桜色の頬に、色付く唇が奏でた音色はトランポリンで弾むボールのように軽やかだ。

ヒューゴ達に出し抜かれた。

その事実を前にして、レンの雰囲気が変わる。
揺れるのは憂う瞳。
それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「不変の魔女、ベアトリーチェ様」

レンは恭しく一礼する。

「この世界は、最も『破滅の創世』様を冒涜しておりました。故に滅ぼさなくてはならないのです。神のご意志を完遂するために」

その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げるレンは、明確なる殺意をこの世界の者達に向けていた。

「しかしながら、『破滅の創世』様を惑わす者がいます。此ノ里結愛さん。一族の者でありながら、『破滅の創世』様を惑わす危険な存在です」
「ふむ……あの小娘じゃのう。なかなか厄介な存在じゃな」

レンの危惧に、ベアトリーチェは納得したようにうなずいた。