「はううっ。……い、今の、もう一度、言ってください!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「今のって、結愛と一緒にいたい、ってやつか……」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「結愛と一緒にいたい」
「きゃーっ」

暖かな眼差し。この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が春の温もりのように感じられて。
奏多は強張っていた表情を緩ませた。

月は照らす。
一つの祈りを、一つの区切りを。
人間が持つ想いが生み出す煌めき。
生命が燃え尽きる間際、その光が一層強くなることを奏多は知っている。
場所も時間も光を放つ人間も違う。
だが、眼前にあるのは、いつかも見た眩しさ。ずっと忘れることのできなかった哀しい輝き。

誰かに生きた証を見てほしかった。傍にいてほしかった。
――それを望んだのは誰の心か。

これからどうすればいいのか、確固たる解答はまだ出ていない。
だが、慧の言葉の意味はもう理解できていた。
怖れを越えなければ、得られない何かがあることを知ったから。
この胸に輝く意思が、何よりもそれを証明しているのだから。

「俺は自分で自分の生き方を決める」

この意思を記憶と記録に残すように、奏多は月に目を向ける。心を彩るいくつもの思い出は、この月のように輝いて見えた。
今や、奏多にも、結愛にも、自分なりに定めた着地点がある。
ただ、各々が目指す場所に向かっての戦い。
それは戦いの形を借りた研鑽であり、人生を生きていくという当たり前の営みに他ならない。

「結愛、俺達もみんなの加勢をしよう!」
「はい、奏多くん」

奏多と結愛は戦う意思を確かめ合うと改めて敵と対峙する。
その恐るべき敵は三人と神獣の軍勢である。
神獣を率いる者達はいささか不自然さもあった。
まるでどこにでもいるような少女二人と痩身の男性。
その異様さえも畏怖に変えて、彼らは進軍を続けている。

「降り注ぐは氷の裁き……!」

結愛は氷塊を連射し、生ずる氷柱で神獣の直撃を阻む。さらに放たれた強固な一撃を辛くも躱すが、巨体に反して神獣の動きは決して鈍くない。

「……くっ」
「はうっ……」

次撃は避けられず、奏多と結愛は壁に叩きつけられた。
神獣の群れは圧倒的な攻撃力と速度で、四方八方から攻勢をかけ続ける。
対する奏多と結愛は防戦一方だ。 

「これなら――」

奏多は不可視のピアノの鍵盤のようなものを宙に顕現させると軽やかに弾き始めた。
研ぎ澄まされた表情で迅速に、かつ的確に鍵盤を弾いていく。
赤い光からなる音色の猛撃を次々と叩き込む。それは治癒の反転、その彼なりの極致は神獣の群れをたじろがせた。