神奏のフラグメンツ

――世界を正すために犠牲が付きものだ。

そんな言葉に頷いてはいられない。
未来のために世界一つ分の犠牲を孕む可能性をこのまま、見過ごせないと。
慧にーさんの言うとおり、まずはこの状況を何とかしないといけないな。
奏多の思考の海に聞こえてくるのは、神獣の軍勢が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。
この世界の人類の存亡を賭けた、『境界線機関』の基地の防衛戦。
その戦況の厳しさは、基地本部から消えた人の影だけでなく、立ち並ぶ商店も計り知れる。
店内はもぬけの殻だった。
『破滅の創世』の配下達と一族の上層部。
互いに交錯する思惑。

「司様が前線に出ているとはいえ、持ちこたえるだけで精一杯だな」

司達、『境界線機関』の者達が抱いていた危惧は現実のものとなった。
倒しても倒しても神獣達は再生を遂げ、何度でも襲いかかってくる。
その圧倒な物量に押されて、それぞれが分断されたまま、合流して戦えないのだ。
まさに抵抗する術がない以上、どうにも手の打ちようがなかった。
他の場所でも戦闘が行われているのか、助勢は見込めそうもない。
『破滅の創世』の配下達がこの場を去らない限り、この悪夢のような大攻勢は途切れることはなかった。

「司、絶対に負けるなよ」

慧はお互い息災であれば再会しようと言葉を交わした司の無事を祈る。

「観月、後方支援は頼むぜ!」
「分かったわ」

慧は観月と力を合わせて敵の迎撃に専念する。
今度こそ、守り抜くと決意を固めて――。
二人が確かな意志を示した時。

「奏多様。お待ちしておりました」

一族の上層部の者達が出迎えてきた。

「いつからここに……」
「どうやら、身を潜めて、奏多様が来るのを待っていたようだな」

観月の疑問に、慧は置かれた状況を説明する。

「その通りです。この場所を知られた以上、我々も悠長に待ち構えているわけにはいかなくなりました。前にお伝えしましたとおり、一族の上層部の上部の方々が、別の騒動の鎮圧に動いておりますので」

そう前置きして、改めて、一族の上層部から告げられた奏多を出迎えた理由はあまりにも重すぎた。
この世界のみならず、多世界全てを巻き込んでしまう火種となりかねぬほどに。

「奏多様。我々とともに来てください。そうすれば、我々が全力を持って、奏多様とそのご家族の身の安全を保証します」
「安全か……」

一族の上層部の一人の申し出に、奏多は眸に戸惑いの色を乗せた。
『破滅の創世』がこの場で、奏多達が紡いだ想いを断ち切るだけならば簡単だろう。
しかし、そこに縋る奏多達の――大切な人達の心の拠り所を奪うことにも繋がるのだ。