神の魂の具現として生を受けたこと。

尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。

「大丈夫ですよ、奏多くん」
「な、なにがだよ……」

導くような結愛の優しい声音。奏多は事態を飲み込めないように頭を振る。

「私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」

奏多に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。いつだって(まご)うなき本音を晒しているのが窺えた。

何故だろう。
こうして結愛を見ていると、まるで小さな箱の蓋を開いたように思い出が溢れ出してきた。
嬉しかったことも、悲しかったことも。
ひとりぼっちだと泣いた夜も、誰とも分かり合えないと落ち込んだ夜も、誰かに抱きしめてほしいと甘えた夜だってあった。
何時だって周りの人達に守られていたと知ったのは広い世界を見た時だっただろう。
その頃は明日を恐れることも、過去を嘆くこともなく、幸せな今だけがあった。

「ふふっ、今朝、約束しましたね」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。

「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」

数多の思惑が絡み合っている今も、こうして間違いなく奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。その事実は途方もなく、結愛の心を温める。

「そして、一族の上層部さん達にも奏多くんを渡しませんよ。奏多くんとずっとずっと一緒にいたいですから!」

結愛は瞳に意志を宿す。一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。決して譲れない想いがあった。

「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です。だから、信じてください。奏多くんの心で見てきたものを。感じたことを」
「俺の心で……」

その言葉に奏多の目の奥が熱くなる。体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。

――そうだ、きっと。
ここからが、『俺』の第一歩。

だから、言いたい言葉は決まっていた。
これが虚勢であっても構わない。今はそれでいい。内側から湧き上がる神の意思なんて、今は聞いていられない。

「俺は、結愛と――みんなと離れたくない。自分自身の手でこの幸せを手離したくない」

奏多は信じている。自分自身の力と未来を。
人は自らの足で歩いている。独りではなく、手を取り合って。

「痛くても苦しくても怖くても、この感情から逃げたくないから」

奏多は聞いていた。数多の旋律を束ね、神奏を天へと放つ。数多の人々の想い。その旋律は永久に紡がれるはずだと。

「俺も……これからも結愛と一緒にいたいからさ」

言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。