「よく分からないのですが、基地に神獣の大軍が迫っているみたいです」

奏多の疑問に、結愛は置かれた状況を説明する。
その時、敵襲を知らせる警報が鳴り響く。
それは不測の事態に備え、夜空を警戒監視していた航空自衛隊の監視小隊からのものだった。

「司様、敵襲です!」
「もう、この場所を把握したのか……」

火急を報せる男性の報告に、司は表情を引きしめる。

「敵の戦力は……?」
「地上では、神獣の軍勢が跋扈(ばっこ)しています。上空に数名、恐らくは『破滅の創世』の配下の者かと」

偵察機の無線機からの報告。
そこからは神獣の軍勢が迫ってくるのが嫌でも見える。
その軍勢が着々と『境界線機関』の基地本部へと近づいていた。

「基地にたどり着く前に、何としても食い止めるぞ」

迎え撃つのは、司達を始めとした『境界線機関』の者達や自衛隊の部隊。
内部まで侵入されて、奏多を奪われればこちらの敗北。
そうならず、奏多を守りきれれば、こちらの勝利だ。
戦いの火蓋は今、切って落とされようとしていた。

「奏多様」

片膝をついた司は改めて、奏多の意向を確かめる。

「俺達は『破滅の創世』様を守護する任務を帯びている。それでも俺は奏多様の意思を尊重したい」
「俺の意思を……?」

付け加えられた言葉に込められた感情に、奏多ははっと顔を上げた。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは、一族の上層部の者達の妨害です。恐らく、この混乱に乗じて、基地に侵入してくるものと思われます」

この状況下で司達、『境界線機関』の者達が奏多を守るためには迅速な対応が求められた。

「おまえ達はどうする? 一族の上層部の者達の対処をするのか? それとも、『破滅の創世』の配下達の対処に回るのか?」

司が、今回の作戦への心構えを慧達に問う。

「司、悪いな。俺はどちらも対処してみせるぜ。絶対に守ってみせるさ」

慧は守りきれるはずだと信じている。
神の意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている奏多の想いを。
それが『冠位魔撃者』――その名が献ぜられた慧にとって、前に進むための力となるはずだから。

「はい、私もどちらも対処しますよ」

結愛はありったけの勇気を振り絞って応えた。
そう――奏多と歩む未来を夢想しているから。

「私はこの戦いを乗り越えて、ずっと奏多くんのそばにいたいですから」

人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
それでも奏多と歩む未来が見たいから。その幸せが欲しい。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつかは共に進むことくらいはできるのかもしれないと結愛は信じて。