とっぷりと陽も落ちた頃、奏多は宿舎の部屋で先程の出来事を思い返していた。

「行きたくない……か」

あの時、発したその言葉は、奏多にとって青天の霹靂だった。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。

「……『破滅の創世』」

だからだろうか――。
奏多にとって、騒動を止めたくないと願う気持ちも自分の意思のように感じられた。
三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしない。
弁解も反論も必要ない。
故に人々は諾々として、それを受け入れるしかない。
たとえ、この世界が滅ぶ過程で他の――数多の世界が巻き添えを食う可能性があっても、『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしないだろう。
それは滅びという災厄として、数多の世界に降り注ぐことになるはずだ。

「それでも、俺はこのまま、この世界でみんなと一緒にいたい……」

奏多には躊躇いがある。
不安もある。
真実は何よりも残酷な凶刃と化しているのだから。

「だけど、『破滅の創世』としての俺は、それを許さないんだろうな……」

その事実は鋭利で、それを知った奏多の心を今も激しく揺さぶっていた。
怒りは、悲しみの二次感情って聞いたことがある。
『破滅の創世』である奏多であればこそ、その怒りと悲しみを身に染みるほどに理解している。
完全に神の記憶を取り戻せば、何度も神としての憤りに――絶望視した過去に囚われてしまうかもしれない。

「期限は明日の朝まで……。俺はこれから、どうすればいいんだろう……」

奏多は、どうしても振り払えない運命に抗いたかった。
悶々としていたその時、インターフォンが鳴り響く。

「……また、誰か来たのか?」

奏多は部屋に鳴り響いたインターホンの音に意識を傾ける。

「あら? 今度は誰かしら?」

奏多の母親が応答するため、インターホンがある部屋へと向かう。
そして、奏多の母親は揺らぐことのない声で問いかけた。

「……はい、どなたですか?」
「夜分、遅くに申し訳ございません。緊急にお伝えしたいことがあります」

インターホンから、司と思われる声が聞こえてきた。
奏多は奏多の母親に連れられて、玄関へと赴く。
そして玄関へと向かうと、ドアを開けて司を出迎える。

「奏多様。突然のご訪問、誠に申し訳ございません」

そこには司だけではなく、『境界線機関』の者達がいた。

「奏多くん、大変です!」
「結愛……どうかしたのか?」

疑問に思う中、奏多はさらにその場に結愛、そして慧と観月がいることに気づいた。