「一族の上層部の上部が、別の騒動の鎮圧に動いている。一体、何があったんだろう」

宿舎の部屋で両親とともに過ごしていた奏多は以前、抱いた疑問を改めて検証してみる。
自分と同じ神である、不変の魔女、ベアトリーチェがこの世界に来た。
それなのに、一族の上層部の上部が、今回の件をヒューゴ達に任せても、動かなけれはいけなかった事態。

「暴動……しか考えられないよな」

奏多は改めて、その答えに行き着いた。
数多に存在する多世界――そこに住む者達の中には一族の者達のことを恨んでいる者も多かった。
特に、この世界の者達は半分以上がよく思っていない。
そもそも一族の者達が強い力を欲するあまり、三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』の力を手に入れようとしたことが全ての発端だったからだ。
目の前で血の通った家族を、友達を、仲間を、自分の世界を形作るかけがえのない人達を、理不尽に傷つけられ、犯され、弄ばれる現実がそこかしこに転がっている。
いや、恐らく、この世界だけではない。
『破滅の創世』の恩恵が、失われたことはあまりにも大きい。
数多の世界の各々で、目も当てられてない悲劇に襲われている誰かが、今もこの瞬間にもいるのだ。

「俺が――『破滅の創世』がいなくなったことで、数多の世界が苦しんでいる……。だから、その恩恵を取り戻そうとしている人達がいるのかもしれない」

神の魂の具現として生を受けたこと。
尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。

「それにしても記憶を二重封印されていたのにも関わらず、俺は今日、何度も『破滅の創世』としての意志を感じた。もしかしたら彼女に出会ったことで、『破滅の創世』としての意志が反応したのかもしれないな」

奏多が何故、『破滅の創世』としての意志を感じたのか、その答えは周囲の状況が語ってくれる。

「不変の魔女、ベアトリーチェか……」

奏多は静かに呼気を吐きだした。
奏多が今日何度も『破滅の創世』の意志を感じたのは、不変の魔女、ベアトリーチェと再会したことによるものだと確信していた。

『久しぶりじゃな。『破滅の創世』。わらわのことを忘れたとは言わせぬ』

奏多はあの時、ベアトリーチェが語っていた内容を呼び起こす。

「懐かしい。あれはどういう意味なんだろう……? やっぱり、彼女のことを前から知っているような気がする」

奏多がどれだけ考えても、その答えに繋がる説明をつけることができなかった。
その真実は、何処にいるとも知れない、不変の魔女、ベアトリーチェと『破滅の創世』の配下達だけが知っている。
ただ――。