赤く染めた大地。
燃え盛る炎の灯は遥か越えて、神の調べを奏でる。
いまだ戦闘は続いているが、部隊のほとんどはヒュムノス達によって撃破されていた。

「手応えがないな」
「そうだね。でも、これが一族の抹殺に、ひいては『破滅の創世』様の役に立つんだし」

リディアの合意に喜んだように、アルリットは目を細めて深く笑う。
降りる帳を待ちわびるように。
彼女達の動きは、一族の上層部の者達の想像とは一線を画していた。

「なんと恐ろしい……」
「由々しき事態だ」

監視カメラの映像からその光景を見ていた一族の上層部の者達は眉をひそめる。
数多の世界の可能性を取り込んだこの世界で繰り返される『破滅の創世』という神の加護を用いた実験と解析。
その過程で顕現する『破滅の創世』の配下達という存在は、一族の上層部にとって看過できないものになっていた。





いつしか凍てつく月がこの地を照らしていた。

「俺は……」

全ての者が戦いの終着点を意識し始める。
その中で奏多だけがただ無心に戦いを見続けていた。
想いを持つ人間という存在。
その想いの強さ故に、この戦場に立っている。
大切な家族を、友達を、仲間を、自分の世界を形作るかけがえのない人達を護るために。
身体が動かなくなるまで、心が挫けるまで、果ては命を落とすまで戦い続ける。
彼らは誰も倒れることのないように全力を尽くす。
人の生きようとする強い意志を彼らは示していた。

「俺はこれからどうしたらいいんだ……」

奏多の心はいまだ、進む『前』だ。
渦巻く不安はどうしようもなく膨らんでいくばかり。
だけど、願わくば見て見たかった。
この胸の奥底を灼く焦燥にも似た、けれどより甘やかな感情の正体は何なのかを。

「……っ」

その時、結愛の掠れた声が聞こえた。どうやら意識を取り戻したようだ。

「結愛、大丈夫か?」
「…………奏多くん?」

自身の置かれた状況を理解した結愛は頬を赤らめる。
意識が覚醒する微かな酩酊感は、思いもよらず近くからかけられた奏多の声によって一瞬で打ち消されたからだ。

「ふええ、大丈夫ですよ。奏多くんこそ、大丈夫ですか?」

結愛は奏多の顔を覗き込むようにして身を乗り出してくる。
吐息が感じられそうなくらい近い二人の距離。その近さに今度は奏多が思わず、瞬きした。

「……ああ」

そう口にしたものの、現実離れした非日常はもはや奏多達の日常と密接に絡んでいる。
幾度も生じる攻撃。戦闘の流れは長期戦に至っていた。

「俺はこれからどうしたらいいんだろ……」

消え入るようなその独白には、微かに自嘲の陰りがあった。
周りの景色が妙に寒々しいものに思える。まるで張り詰めた緊張感に身震いするようだ。
この状況は誰かの悪意に彩られて作られているような、そんな気持ちがしていた。