「……っ」

奏多の手が放つ光は、一族の上層部がひた隠ししていた闇を払うように輝く。
その瞬間、前方に緊急脱出装置らしきものが姿を現した。

「……何だ、これ?」

奏多は一族の上層部の結界を解いた自分の手を見つめる。
それは神の御技(みわざ)
奏多の手で燃えさかる炎はさながら、万物の始原に在ったという伝説のそれにも見えた。

「……奏多のおかげで、緊急脱出装置の場所が判明したのか。『破滅の創世』様の力は凄まじいな」
「そうね」

慧の確信めいた言葉に、観月は同意しつつも不安を零す。

「でも、神の力を行使できる今の奏多様を……『破滅の創世』の配下達が拠点にお連れしたら、完全に『破滅の創世』様の記憶を取り戻す方法を見つけてしまうかもしれない」

その事実は観月の心胆を寒からしめた。

『破滅の創世』の配下達は誰よりも何よりも、一族の者に激しい悪意と殺意を振りまいている。
とはいえ、少なくとも今は、『破滅の創世』の配下達は、奏多の意思を無視して強引に連れていくことはない。
だからこそ、それを確実に成し遂げるために、奏多を拠点に連れていこうとしている。
それが今の戦場の様相。
だが、そこに奏多の――『破滅の創世』の神意を加味すれば、最悪の事態が待つ。

「それが何を指していようともな」

それでも慧は拳に力を込める。
視線を決して、緊急脱出装置から外さずに。

「……まぁ、今の俺達ができることは二つ。緊急脱出装置を駆使して安全な場所に赴くこと、そして奏多を信じることだけさ」
「……そうね。私も奏多様を信じるわ」

世界への影響を止めるためにも、奏多を守る……それが、今の慧と観月にさし迫りし事態であった。

「観月。これ以上、被害を出さないためにも、緊急脱出装置で移動するぜ!」
「分かったわ」

様々な思いが過りつつも、慧と観月は動き出す。

「『破滅の創世』の配下達、一族の上層部、どちらも味方ではないわ。緊急脱出装置は見つけたけど、この混乱した状況を利用して、奏多様を狙ってくるかもしれない」

そこに疑いを挟む余地はない。
観月が口にしたその言葉が全てを物語っていた。

「よし、緊急脱出装置のもとに向かおう」

司の号令の下に、緊急脱出装置へと多くの意志が踏み込む。
誰も彼も、安全な場所へ向かう心算なのは間違いなかった。