「一族の上層部の上部が、別の騒動の鎮圧に動いている。何があったんだろう」

あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。
自分と同じ神である、不変の魔女、ベアトリーチェがこの世界に来た。
それなのに、一族の上層部の上部が、今回の件をヒューゴ達に任せても、動かなけれはいけなかった事態。

「暴動……」

奏多はやがて、その答えに行き着いた。
数多に存在する多世界――そこに住む者達の中には一族の者達のことを恨んでいる者も多かった。
特に、この世界の者達は半分以上がよく思っていない。
そもそも一族の者達が強い力を欲するあまり、三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』の力を手に入れようとしたことが全ての発端だったからだ。
目の前で血の通った家族を、友達を、仲間を、自分の世界を形作るかけがえのない人達を、理不尽に傷つけられ、犯され、弄ばれる現実がそこかしこに転がっている。
いや、恐らく、この世界だけではない。
『破滅の創世』の恩恵が、失われたことはあまりにも大きい。
数多の世界の各々で、目も当てられてない悲劇に襲われている誰かが、今もこの瞬間にもいるのだ。

「俺が――『破滅の創世』がいなくなったことで、数多の世界が苦しんでいる……」

神の魂の具現として生を受けたこと。
尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。

「大丈夫ですよ、奏多くん」
「な、なにがだよ……」

導くような結愛の優しい声音。奏多は事態を飲み込めないように頭を振る。

「私は奏多くんを……『破滅の創世』様を信じていますから!」

奏多に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。いつだって紛(まご)うなき本音を晒しているのが窺えた。
何故だろう。
こうして結愛を見ていると、まるで小さな箱の蓋を開いたように思い出が溢れ出してきた。
嬉しかったことも、悲しかったことも。
ひとりぼっちだと泣いた夜も、誰とも分かり合えないと落ち込んだ夜も、誰かに抱きしめてほしいと甘えた夜だってあった。
何時だって周りの人達に守られていたと知ったのは広い世界を見た時だっただろう。
その頃は明日を恐れることも、過去を嘆くこともなく、幸せな今だけがあった。