「――うん、あたし達の動きを止めて逃げるつもりみたいだったみたいだね」

アルリットは、地面に仕掛けられていた緊急脱出装置を見る。

「『破滅の創世』様を拠点にお連れできなかっただけではなく、一族の上層部の者達にまで逃げられたというのか。このまま、帰還するわけにはいかなそうだ」

奏多達の行き先を模索しながらも、リディアはため息を吐いた。

「ふーん。本当に、あの人間の能力って面白いね。死んだ者をアンデット、つまり不死者にすることができる力と、攻撃を無効化する力だよね」

ヒューゴ達が立ち去ったことを認めてから、アルリットはにこりと微笑んだ。

「アルリット、全て『強奪』するのか？」
「うん。利用価値がありそうだし、いずれはね」

リディアの疑問に、アルリットは朗らかにそう応えた。

「それにケイのように生き返ったら困るからね」

重要な任務に失敗し、アルリットに殺害された後、慧はヒューゴの手によってアンデット、つまり不死者として蘇っている。
だからこそ、アルリットはヒューゴが再び、別の者を蘇させてくると踏んでいた。

「レン。一族の上層部の者は面白い能力を持っているようじゃな。それに『境界線機関』の者達も、いさぎよいのう」

ベアトリーチェは自身の置かれた状況を冷静に分析する。

「しかし、あっさりと逃げられるとは、わらわもまだまだかのう」

その桜色の頬に、色付く唇が奏でた音色はトランポリンで弾むボールのように軽やかだ。

司達とヒューゴ達に出し抜かれた。

その事実を前にして、レンの雰囲気が変わる。
揺れるのは憂う瞳。
それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「不変の魔女、ベアトリーチェ様」

レンは恭しく一礼する。

「この世界は、最も『破滅の創世』様を冒涜しておりました。故に滅ぼさなくてはならないのです。神のご意志を完遂するために」

その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げるレンは、明確なる殺意をこの世界の者達に向けていた。

「しかしながら、『破滅の創世』様を惑わす者がいます。此ノ里結愛さん。一族の者でありながら、『破滅の創世』様を惑わす危険な存在です」
「ふむ……あの小娘じゃのう。厄介じゃな」

レンの危惧に、ベアトリーチェは納得したようにうなずいた。

「だが、まずはわらわ達を足止めする者達を葬ろうかのう」

ベアトリーチェが見つめた先、上空から次々と多機能ステルス戦闘機が飛来していた。