「結愛……!」

奏多は結愛のもとに駆け寄ろうとしたが。

「おっと、『破滅の創世』様はこちらだ! 逃がすつもりはないぜ!」

その前にヒューゴが立ち塞がる。

「このまま、俺達が代表して、『破滅の創世』様を安全な場所までお連れする。おまえら、『境界線機関』の者達は仲良く、『破滅の創世』の配下達の足止めでもしてろよ」

ヒューゴが発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令だった。

「……っ」

有無を言わさない形で、奏多と結愛を人質に取られた状況。
思わぬ事態に、司は表情を曇らせる。

「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。

「――っ!」

たったそれだけの動作で、『境界線機関』の者達を楽々と弾き飛ばした。
喰らった力の凄まじさは『境界線機関』の者達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。

「凄まじいねぇ。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、この場から逃げさせてもらう!」

しかし、置かれた状況を踏まえたヒューゴは、即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。

「『破滅の創世』様には、これからも川瀬奏多様として生きてもらわないといけないからな」

そう――もうすぐで手が届くのだ。
一族の上層部にとって、唯一無二の願い。

人間として生きたい。
それを奏多が選ぶだけで――。

このまま『破滅の創世』を人という器に封じ込め続け、神の力を自らの目的に利用するという一族の悲願こそがこの世界を救う唯一の方法だと一族の上層部は知っているのだから。

「まずは、『破滅の創世』の配下達の動きを阻害する必要がありそうだな」

アルリット達を――『破滅の創世』の配下達を侮ってはいけない。
これまでの戦績を思えば、その事実は明白である。
そう判断したヒューゴは、アルリット達を見据えた。

「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」

アルリットはそう言うと軽く手を振りかざした。
本来なら、それだけでヒューゴ達は吹き飛ばされただろう。
だが、ヒューゴは手をかざしたことで、その攻撃をなかったことにしたのだ。

「……すごい」
「ほええ、驚きです。『破滅の創世』様の配下さん達の攻撃が発動しなかったですよ!」

遠巻きから見ていた奏多と結愛も驚愕する。

「まぁ、埒外な能力だな」

慧は苦々しいという顔でつぶやいた。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。

「ふむ……わらわ達の邪魔をするのなら消し飛ばすまでじゃな」
「そうですね」

ベアトリーチェとレンが動こうとした矢先。

「さすがに不変の魔女、ベアトリーチェ様の力は防げないからな。緊急脱出装置、発動!」

ヒューゴの声に呼応するように、地面に光が浮かび上がった。