とはいえ、あくまでこれは超常の領域にある『破滅の創世』の配下への足止め程度。
倒すを確約するものではなく、どれほど妨げられるのかも未知数。

「一族の上層部はこの状況をどうするのかしら……?」

そう口火を切った観月は懸念を眸に湛えたままに重ねて問いかける。

「このまま傍観に徹するつもりなのかしら?」
「いや、そんなわけねぇだろう。この状況になることを予め、推測していた、と考えるべきだ」

状況を踏まえた慧はそう判断する。一族の上層部の矜持。その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。

「もし『破滅の創世』様の記憶のカードを奪われて、奏多が神としての記憶を完全に取り戻したとしてもさ。記憶を封印されていた時のことを含め、今までの出来事を全て覚えている」
「そうね。奏多様が神としての記憶を取り戻しても、妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」

慧の説明に、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は納得する。

「たとえ記憶を完全に取り戻したことで神の力を行使できるようになっても、奏多が周囲に危害を加える可能性は低い」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。

「『思い出』という名の保険があるもんな。それに再び、記憶を封印する手立てを考えている……そんな節も上層部にはあるからな」

もし、その言葉が真実だというならば、これから起こるのは最悪だ。
一つ一つの呪いのような感情は神にとっては小さいものだが、長い年月とともに蓄積されたものは計り知れず、雁字搦めになっていく。
このままでは、奏多は一族の上層部の思惑に囚われたままになる。

「俺と観月をこの任務に当たらせたのも、俺達が一族の上層部に逆らえねぇことを踏まえてのことだろうな」

それはただ事実を述べただけ。だからこそ、余計に慧は自身の置かれた状況に打ちのめされる。

浅湖家や此ノ里家を始め一族の冠位の者の役割は、敵である神々と『破滅の創世』の配下の部隊に対して警戒を行うことであった。
慧達もまた、形だけでも整えた急造部隊として、隙を巧妙にうかがう『破滅の創世』の配下への牽制を行う任務を帯びている。
それは言い換えれば、一族の冠位の者は一族の上層部に逆らうことができないことを意味していた。

恐らく、俺を蘇えらせて不死者にして利用したのは一族の上層部の誰かだろうな。

厄介なものを押しつけてくれたなと、慧は今でも思っている。
何度も投げ出してしまおうかと思ったが、何だかんだでここに居続けているのは性分なのだろう。

それに観月は――一族の上層部に逆らうことができない理由がある。

今なら分かる。これが最適解だと思ったからこそ、一族の上層部は慧と観月をこの任務に就かせたのだ。
この世の悪意を凝集したような一族の上層部のやり方に、慧だけではなく、観月も激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。