渦巻くヒューゴ達の思惑。
だが、司は周囲の状況を把握すると、改めて告げた。

「ヒューゴ。そもそも、おまえが持っている『攻撃を無効化する能力』の発動条件は、体力を半分以上削られた時だけだろう？」
「まあな。正直、条件がややこしくて、なかなか使う機会がないけどな」

司の鋭い切り返しに、ヒューゴは楽しげに笑みをこぼす。

「使う機会がない。それなのに何故、貴様はそんなに余裕があるんだ？」
「『破滅の創世』の配下達の攻撃は、どれもこれも脅威そのものだ。その中には、『攻撃を無効化する能力』の発動条件を満たしてくれるものもあるからさ」

状況が掴めないリディアに応えるように、ヒューゴは不敵に笑った。

「余裕があるその理由は、おまえ達の方が分かっているんじゃないのか？」

そう口火を切ったヒューゴは、笑みをたたえたままに重ねて問いかけてくる。
微かに。思考を過ぎる何か。

「もしかして……」

戦線の把握に務めていたアルリットは気づく。

「リディア。一族の上層部さんは、あたし達に勝つのが目的じゃない。この場から離脱するための時間稼ぎをすることだよ」

そう口にしたアルリットはこの数手の攻防だけで、一族の上層部の者達の手強さを肌で感じ取っていた。
ヒューゴは今、完全に待ちに徹している。
それは奏多を、安全な場所まで連れていくことを狙ってのもの。
『破滅の創世』の配下の力は強大だ。
その上、不老不死である。
何かあれば、勝敗の天秤はアルリット達に傾く。
だからこそ、ヒューゴは焦らない。
彼は敢えて、アルリット達をこの場に留めることを狙っていた。
自らを『囮』とすることで、緊急脱出装置を使用する時間を稼ぐという戦術的な利用を用いてきたのである。

「囮……？」

観月が促すと、ヒューゴは薄く笑みを浮かべる。
それが答えだった。

「俺達ごと、囮にされたのは気にくわないが、奏多を守るためだ」

慧は静かに呼気を吐きだした。
この際、一族の上層部の者達に関する疑問は後回しだ。
問題なのは、リディア達がこの地域一帯を無差別に攻撃する可能性が高いという点である。
恐らく誰も彼もを『破滅の創世』を害する者、と認識しているだろう。

どうしたら、この状況を改善できるんだ……。

奏多の思考の海に聞こえてくるのは、アルリット達が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。