神奏のフラグメンツ

「ふむ……わらわ達の邪魔をするのなら消し飛ばすまでじゃな。わらわも加勢しようかの」

ベアトリーチェが招くのは無慈悲に蹂躙する赤い光。
その暴虐の光は排斥の意図もろとも最前列の部隊を飲み込んだ。
『破滅の創世』の配下達の圧倒的な力量差の前に為す術がない。

「さすがに不変の魔女、ベアトリーチェ様の力は防げないぜ」

ヒューゴの的確な言葉に、司は渋い表情を見せる。

「このままではいずれ、打つ手がなくなるな……」

驚愕と焦燥。
司が走らせた瞬間的の感情に状況は明白となった。

ヒューゴの攻撃を無効化する能力でも、ベアトリーチェの力は防げない。

その歴然たる事実を前にして、司の取った行動は早かった。

「奏多様、こちらへ!」
「結愛、行こう」
「はい、奏多くん」

置かれた状況を踏まえた司は即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。
『境界線機関』の者達も奏多と結愛の身を護りながら撤退しようとした。
だが――。

「何度も同じ手は通じません」

レンは忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。

「これは……!」

想定外の出来事を前にして、『境界線機関』の者達は驚愕する。
アルリットが強奪した聖花の能力。
相手の能力をコピーすることのできるそれは、この状況下でも絶対的な強さを発揮した。

「――っ」

今回、アルリットが用いたのは幻覚の能力。
『境界線機関』の者達は各々の得物が彼女に触れることもできず、透過するのを目にする。
だが、不可解な現象に混乱している余裕はなかった。

「下らないことをするね。『境界線機関』の人間は」

アルリットはそう言うと軽く手を振りかざした。

「ぐわっ!」

その一振りだけで、包囲陣を築き上げていた部隊は崩され、『境界線機関』の者達の命をいとも簡単に奪っていく。

「ねー、『境界線機関』のリーダーさん」
「――っ」

アルリットの目に宿った殺意から、司は敢えて視線を逸らした。
殺意の一言で説明できないほど、その感情は深く深く渦巻いていたから。

「……不変の魔女、ベアトリーチェと『破滅の創世』の配下達。最悪、この一帯が崩壊するな」

それはただ事実を述べただけ。
だからこそ、余計に司は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
ここに訪れるまで、神という脅威を甘く見積もっていた。
これが『境界線機関』の者達が、現在の状況に追い込まれた要因の一つだろう。

このままではまずいな……。

『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何より機先を制した『破滅の創世』の配下達の動きが警鐘を鳴らした。