神奏のフラグメンツ

『破滅の創世』の奪還のために、一族の者達を相手取る戦いは世界各地で続いている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界にとっての最大の敵で在り続けていた。

「厄介なこと、この上ないな」

帰趨(きすう)の見えない状況に、慧は考えあぐねる。
『破滅の創世』である奏多の防衛を最重要視せねばならない。
だが、『破滅の創世』の配下達は恐ろしいほど脅威だ。
一族の上層部と協同戦線を張っているとはいえ、この場を切り抜けることはかなり厳しいだろう。
先手を打とうとも後手に回ろうとも、今後の戦いの全容ははっきりとしたことは分からなかった。

「ここで何としても食い止めるぞ!」

それでも、死と隣り合わせの戦場から得られる経験は、訓練とは違った恐怖を伴うものであるが故なのだろう。
生き残らねばという執着が『境界線機関』の者達を支配していた。
それは消極的なものではなく。
むしろ、闘争心に火をつけるものであった。

「ふむ……わらわ達を止めにかかるか。面白いのう」

ベアトリーチェはそれを見越していたように微笑む。

「まあ、わらわとしては、久しぶりに『破滅の創世』の力を垣間見えて嬉しいのう」

ベアトリーチェは、奏多に――『破滅の創世』に会えただけで幸せであった。
彼女がそれを親愛と名付けたならば、親愛である。
友愛と名付けたのであれば、友愛である。
親愛も友愛も、彼女の言葉一つで意義を持つ。
詰まるところ、ベアトリーチェという女神にとって、人間の愛や正しさなど、どうでも良い判断材料であった。
神の言葉こそが天上の囁きであり、至高の頂きである。
神の望みこそが、真に人が叶えるべき目標であった。

「一族の者達の手から救い出す手助けをしようかの」

うっとりと笑ったベアトリーチェの頬に朱の色が昇った。
『不変』を意味するその名を有したベアトリーチェは女神である。
状況を手繰りながらも、前線に飛び出すのはあくまでも興味本位と信じるが故だ。
モラトリアムは終わったのだ。
数多の世界は例外なく、混乱の最中に放り込まれる。
それは、この世界とて例外ではない。

「奏多は絶対に死守するさ」
「奏多様は絶対に護るわ」

慧の確固たる決意に、カードをかざした観月は応えた。

「悪いが、ここから先は行かせねぇぜ」

慧は奏多達が撤退する猶予を作るように発砲した。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、弾は全て塵のように消えていく。