「『破滅の創世』様、この世界は最も神を冒涜しておりました。故に滅ぼさなくてはならないのです。神のご意志を完遂するために」

その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げるレンは明確なる殺意を結愛達に向けていた。

「その人間の言葉に惑わされてはいけません。これから何をしようと一族の者の罪が消えるわけではないのです。私達が決して許さないことが、彼らの罪の証明となる」

平坦な声で、レンは結愛の決意を切り捨てる。

「此ノ里結愛さん。一族の者である……あなたが、『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど、あってはならないのです」
「そんなことないです! 明日、今日の奏多くんに逢えなくても、私は明日も奏多くんに恋をします! 怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!」

レンが嫌悪を催しても、結愛は真っ向から向き合う。

「奏多くんが大好きだから!」

最後まで自分らしく在るために――結愛は今を精一杯駆け抜ける。
それは結愛なりの矜持だった。

「……分かりました」

レンが深刻な面持ちで告げる。
苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。

「一刻も早く、『破滅の創世』様を拠点にお連れしましょう。『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、此ノ里結愛さん、『破滅の創世』様を惑わす人間の言葉など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」

レンの胸から湧き上がってくるのは鋭く尖った憤り。
そして――

「うん、そうだね。あたしはね……叶えたいことがあるの。でも、それは『破滅の創世』様の記憶が戻らないと絶対に叶わない願いだから」

アルリットの胸から湧き上がってくるのは、たった一つの想い。
何もかもを取り戻せるなら、アルリットはあの頃の『破滅の創世』を取り戻したいと願っていた。

「そんなことさせないわ!」

その言葉に即座に反応したのは観月だった。

『お姉ちゃん、好きな人ができました。奏多くんです』

花が咲き零れるような結愛の笑顔。
そう――観月は知っている。
この世界の未来は人と、人の想いの行く末の先にあることを――。

「結愛、あなたならきっと大丈夫」

観月の横顔は強い哀感に満ちてはいたけれど、その眼差しはまっすぐに逃げる事なく現実を見つめているようだった。

「だからお願い。これからも奏多様とともに生きることを諦めないで」

神の魂の具現としてあり得ない生を受けた奏多。一族の誰かが悔いたところで、過ぎた過去は決してやり直せない。
この世界はやがて、無慈悲な神々の怒りを受けて砂上の楼閣のごとく崩れ去るかもしれない。