「降り注ぐ、は……」

結愛はカードを振るう。ふわりと浮かび上がる氷の柱が彼女に膝を突くことを許さなかった。

「氷の裁き……!!」

氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の反攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。
カードから放たれた無数の強大な氷柱はレンを突き立てようとするが、しかし――全てが無干渉に通り抜けていく。
圧倒的な力量差の前に為す術がない。それでも結愛は思いの丈をぶつけた。

「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」

それは今まで何度も奏多に伝えた大事で大切な告白。
それでも想いがそのまま形になるように、結愛の心にとめどなく言葉は溢れてくる。

「たとえ『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻しても、奏多くんは奏多くんのままです!」

結愛がそう口にしたのは決して確証があったから、じゃない。
奏多のことが好きだから――。

「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」

臆病に伝えた結愛の心の端を、奏多は手を繋ぐことでゆっくりと受け止めてくれる。
だけど、一歩ずつしか踏み出せないままで少しばかり、物足りなさを感じ始めたから。
結愛は伝えたい言葉にもう少しの意味を添えてみた。

「でも、奏多くん、安心してください。大丈夫です」

結愛は一度だけ目を伏せ、そして奏多へと視線を向けた。

「何故なら、そうなる予感があるのです」

そう――予感があるから。
あの日、聖なる演奏を聞いた時、気づいたのだ。
そして、『境界線機関』の基地本部の出来事の後で、奏多が改めて、あの時の約束を伝えてくれたことがその予感を裏付けていた。
『破滅の創世』の記憶がある時の奏多も『奏多』だと。
奏多と一緒なら自身が見たい景色を見つけ、その場所へと走っていけると信じていた。

「ほらほら、私の予感は当たるんです。だから、奏多くん、大丈夫です!」
「そうだったな」

結愛の素直な物言いに、奏多は思わず苦笑する。
『境界線機関』の基地本部の入口にきた時よりもぴんと伸びた背筋も、まっすぐな瞳に映された希望も。
なによりも、それら全てがこれより先を進むことを決意した彼女の覚悟の表れのようだった。
だからこそ、この戦いを投げ捨てることなどできないとばかりに、結愛は思いの丈をぶつける。