奏多と結愛の身を護るために、慧達がこの現状から一歩踏み出した、その刹那――
「下らないことを」
不意にこの場に新たな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこにはレンとベアトリーチェが立っていた。
「『破滅の創世』様……」
迷いなく、力強く放たれた奏多の言葉に、レンの瞳が細められる。
狂気の中に憐れみを交えて。
「人間として生きたことはお忘れください。神であるあなた様に人の心など、不要なものです」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前のレンに、ただただ意識を奪われ続けている。
レンは一つも嘘は吐いていない。全て明白な事実なのだろう。それでも――
「そんなことないです!」
「……結愛」
結愛が発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
「私にとって、奏多くんは奏多くんです。奏多くんは約束してくれました。絶対に傍にいるって……。約束の力は無限大って……」
カードを掲げた結愛は一度だけ目を伏せ、そしてレンをまっすぐに見つめる。
全ての発端は強大な力を求めた一族の愚かな渇望だった。
相手の言い分が正しいことも理性ではきちんとわきまえている。
しかし、感情で納得できるかはまた別の話だった。
「だから、『破滅の創世』の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」
神と人間、この関係が正しいかも定かではない。
それでも奏多と結愛の心は今、確かに響き合っている。
人間と神が何の隔たりもなく、共に過ごしていく。
きっと、いつか夢想しただろう、そんな光景。
その儚い夢の輪郭をこの場で垣間見て、結愛は激闘の囀りとともに震え落ちた。
「下らないことを」
不意にこの場に新たな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこにはレンとベアトリーチェが立っていた。
「『破滅の創世』様……」
迷いなく、力強く放たれた奏多の言葉に、レンの瞳が細められる。
狂気の中に憐れみを交えて。
「人間として生きたことはお忘れください。神であるあなた様に人の心など、不要なものです」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前のレンに、ただただ意識を奪われ続けている。
レンは一つも嘘は吐いていない。全て明白な事実なのだろう。それでも――
「そんなことないです!」
「……結愛」
結愛が発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
「私にとって、奏多くんは奏多くんです。奏多くんは約束してくれました。絶対に傍にいるって……。約束の力は無限大って……」
カードを掲げた結愛は一度だけ目を伏せ、そしてレンをまっすぐに見つめる。
全ての発端は強大な力を求めた一族の愚かな渇望だった。
相手の言い分が正しいことも理性ではきちんとわきまえている。
しかし、感情で納得できるかはまた別の話だった。
「だから、『破滅の創世』の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」
神と人間、この関係が正しいかも定かではない。
それでも奏多と結愛の心は今、確かに響き合っている。
人間と神が何の隔たりもなく、共に過ごしていく。
きっと、いつか夢想しただろう、そんな光景。
その儚い夢の輪郭をこの場で垣間見て、結愛は激闘の囀りとともに震え落ちた。



