「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。
本来なら、それだけでヒューゴ達は吹き飛ばされただろう。
だが、ヒューゴは手をかざしたことで、その攻撃をなかったことにしたのだ。

「不死能力だけじゃないんだね。その能力、素晴らしいね。ねー、そこにいる、一族の上層部さん」
「……へえー。この能力にも目をつけたってわけか」

アルリットの目に宿った殺意を前にしても、ヒューゴは余裕綽々という感情を眸に乗せる。
この場を打開できる算段があるように――。

「おっと、その前に浅湖慧、おまえも俺に加勢しろよ」
「奏多のおかげで、呪いは解けている。加勢するつもりはないぜ」

慧の反応も想定どおりだったというように、ヒューゴの楽しそうな表情は変わらない。

「いや、そのことは重々、分かっているさ。ただ、呪いが解けても、俺の能力が蒼天の王アルリットに奪われたり、最悪、俺が死んでしまうと――」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。
そう言わんばかりに、ヒューゴは事実をさらりと告げる。

「当然、おまえも死ぬことになるからな」
「ちっ、そういうことか!」
「……っ」

あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、慧と観月は大きく目を見開いた。

「そうさ。浅湖慧、貴様を生き返らせたのは俺なんだからな」

空白。
あまりにも唐突な……ヒューゴの宣言に、奏多と結愛の思考が真っ白に染まってしまった。
数秒経って、ようやくひねり出せた言葉は微妙に震えていた。

「そ、それって呪いが解けても……この人の身に何かあったら、慧にーさんが……」
「はううっ……」

奏多と結愛は混乱する頭で、どうにか言葉を絞り出す。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。

「そうさ。今の『破滅の創世』様にとって、お兄様の生死は重要だろう」 
「……っ」

奏多の姿を認めてから、ヒューゴは薄く笑みを浮かべて言った。

「観月。これ以上、被害を出さないためにも、ここで何としても食い止めるぜ!」
「分かったわ」

様々な思いが過りつつも、慧と観月は動き出す。

「『破滅の創世』の配下達、一族の上層部、どちらも味方ではないわ。地上戦に何とか持ち込めたけれど、この混乱した状況を利用して、奏多様を狙ってくるかもしれない」

そこに疑いを挟む余地はない。
観月が口にしたその言葉が全てを物語っていた。