「ヒューゴ様」
「してやられたな。あんなにあっさりと、『境界線機関』の者達が逃げの一手を選ぶとは思わなかった」

一族の上層部の者の戸惑いに、ヒューゴはやれやれと肩をすくめる。

「まさか、『境界線機関』の者達の方が、一族の上層部の本部を破壊するとは。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、できる限りの揺さぶりをかけさせてもらう」

ヒューゴは薄く笑みを浮かべて言った。

「どうやって、あの場から脱出を……?」

矢継ぎ早の展開。
それも唐突すぎる流れに、『境界線機関』の者達は顔をしかめる。
一触即発な空気が流れる中。

「どうなっているの……?」
「一族の上層部の者達は、本部の内部を知っている。つまり、最上階には、緊急脱出装置があったんだろうな」

話の全貌が掴めない観月に応えるように、慧は不敵に笑う。

「で、恐らく、こいつらはそれを使って、この場に離脱したんだろうさ」
「……一族の上層部の上部しか知らない脱出口?」

観月が促すと、ヒューゴは薄く笑みを浮かべる。
それが答えだった。

「あたし達が今回、遂行することは『破滅の創世』様を拠点にお連れすること」
「貴様らの問答に付き合うつもりはない」

アルリットとリディアが歩み寄ってくる。
その一言一句に恐怖に駆られ、顔を強張らせる一族の上層部の者達。

「なら、俺達はそれを阻止させてもらうとするかねぇ」

逆に、ヒューゴは喜ばしいとばかりに笑んでいる。

静寂が満ちた。

一族の上層部にとって、最大の誤算は『破滅の創世』の配下達の存在だった。
彼女達さえいなければと思うことは幾度も起こり、そして今もまた起ころうとしている。
それでも戦うことを、挑むことをやめないのは、それが一族の上層部の矜恃に連なるものゆえだろう。

「下らない抵抗をするね。一族の上層部の人間は」

そう告げるアルリットは明確なる殺意をヒューゴに向けていた。

「愚かなものだ。一族の上層部の人間とは」

口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
リディアは忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。

「『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

アルリット達はその為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。