神奏のフラグメンツ

「……奏多くん」

しかし、それによって伴われる絶大なる威力はこの場にいる者達に与えられることはなかった。
膨大な光撃が結愛達に命中するその寸前に、奏多が片手でそれを弾いてしまったからだ。

「みんな、大丈夫か?」
「はい、奏多くん」

結愛達の身に唐突に訪れた窮地。
しかし、それは奏多が手をかざしたことで危機を脱していた。

「奏多、助かったぜ」
「本当に凄まじい力ね」

慧の言葉に呼応するように、観月は眸に不安の色を堪える。

「またもや、わらわの攻撃を防ぎよった。記憶を失った『破滅の創世』、厄介じゃのう」

身を呈して結愛達を守った奏多の姿を見て、ベアトリーチェは落胆する。

「地上に着く前に対応してきたか」

視線を張り巡らせた司は置かれた状況を重くみた。

「あたし達から逃れようとしても無駄! 今度こそ確実に『境界線機関』を消滅させるよ!」

司を狙いに定めたアルリットは残像を残すほどの超加速で迫る。

「くっ……!」

司が瞬く間に、アルリットとの距離が一瞬で縮まった。

「これで終わりだよ!」

アルリットは司達を完全に消滅させるために膨大な力を解き放とうとする。
しかし――。

「悪いが、おまえ達の好きにさせるつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」

そこに先に地上に降り立っていた慧の攻撃が銃弾が迫る。
銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれたのだ。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
だが、弾はアルリット達に命中する前に全て塵のように消えていった。
しかし、その行為によって、アルリットの猛撃は不発に終わる。

「行くぜ、観月。俺達の目的を果たすためにも……力を貸してくれ!」

慧は強い瞳で前を見据える。
それは深い絶望に(まみ)れながらも前に進む決意を湛えた眸だった。
何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものかと。

「もちろんよ」

他に言葉は不要とばかりに、観月は優しい表情を浮かべていた。
二人の誓いはたった一つ。
奏多と結愛を護るためにこの状況を打開すること――一族の上層部の野望を(くじ)くために絶望の未来になる連鎖を断ち切ることだ。
奏多と結愛の身を護るために、二人がこの現状から一歩踏み出した、その刹那――

「やれやれ」

不意にこの場にそぐわない朗らかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこにはヒューゴと一族の上層部の者達が立っていた。