「さて、ここからが踏ん張りどころだ」

司を始め、『境界線機関』の者達も相応の覚悟を持って、この撤退を行っている。

最優先事項は奏多の身の安全――。

『境界線機関』の者達は今回、奏多を守護する任務を帯びている。
その守りは固く、そう簡単には隙は見せない。
防衛戦を仕掛ければ、十分に凌ぐことはできるはずだ。
だからこそ――

「今だ。このまま飛び降りて、地上戦に持ち込むぞ!」

さらに司を先頭に、『境界線機関』の者達が、リディア達の防衛を崩しにかかる。
だが……。

「無意味だ」

そう断じたリディアの瞳に殺気が宿る。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、全ては無意味に、塵のように消えていく。

「――っ」

リディアの表情は変わらない。
深遠の夜を照らす満天の月のような――流麗にして楚々たる容貌は僅かも曇らなかった。
『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。神敵であると。
そして――。

何だろ? この不安?

奏多の思考の海に聞こえてくるのは危険が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。

「ほええ、最悪です。奏多くん、めちゃくちゃ高いですよ」
「本当だな」

怯える結愛の言葉に、奏多は真剣な眼差しでうなずいた。
何度か躊躇いながらも、パラシュートを背負った二人は申し合わせたように、大空へと飛び出す。
遅れて、パラシュートを背負った『境界線機関』の者達も飛び降りる。
今更、ここまできて臆することなどない。
誰も彼も歩みは止めない。
――しかし、ここは当然、敵地だ。
ならば、一族の上層部に有する者達、そして『破滅の創世』の配下の者達が動いてこないわけはない。
最上階から飛び降り、地上へと向かいパラシュートを広げた先で――奏多は異変に気づいた。

「慧にーさん、攻撃が来る!」

奏多がそう呼びかけた途端、通路の向こうから無数の光撃が飛んでくる。
彼女が招いたのは無慈悲に蹂躙する光。
結愛達には……悲鳴の声の一つすら上げる時間は与えられなかった。
その前に彼女が招いた致命的な光撃が結愛達へと放たれていたからだ。
だが――

「……っ」

次の瞬間、結愛達の視界は一変していた。

「……あっ」

結愛の前に、いつの間にか手をかざした奏多が立っている。
光撃の遠撃。それは寸分違わず結愛達に迫った、はずなのに。
それなのに――