不満は燻っているが、圧倒的で万能な力を手中に収めている一族の上層部に文句を言えるわけがない。
何しろ、一族の者が『破滅の創世』を手にしてから、彼らの思うまま、この世界の情勢は積み上がっていったからだ。
神のごとき強制的な支配力。
それは彼らをよく思っていなかった国家の者達さえもいつの間にか一族の上層部に味方するほどだ。
天災さえも支配し、それを利用することができる。
それでも一族の者に危害を加えようとした者は全て行方不明になった。
彼らが軍を掌握し、瞬く間に世界を席巻するまでさほど時間はかからなかった。

『破滅の創世』は記憶を奪われて、一族の上層部に利用され続けている。

その偽りなき事実が『破滅の創世』の配下の者達の怒りに拍車をかけたのは言うまでもない。





「神よ、ご照覧あれ」

数多の思惑吹き荒れる。この戦地に吹く風は、はたしていかなる未来が紡がれる事になるのだろうか。
この世界には時折、異世界からの来訪者がやってくる。
その多くは全知全能の神である『破滅の創世』を取り戻そうとする『破滅の創世』の配下達だ。

「先を選べ、人の子らよ、この世界は滅びに面している」

『破滅の創世』の配下である痩身の男とこの場の戦線に加わった大軍勢。
互いの距離の間に流れるのは一触即発の気配。
あとはどちらが口火を切るか――最早、その程度の薄皮一枚だ。

「闇に沈みし暗き大地は、神の訪れを焦がれ待つ」

彼らに向けられる『破滅の創世』の配下である男の視線は常に冷淡なものであり、排斥の意図が込められていた。

「黎明の光が欲しければ、神に許しを乞え。安寧が欲しければ、神のご意志のもとに眠れ」

『破滅の創世』の配下である彼は主が御座す世界を正そうとする。
『破滅の創世』の神意に従い、その御心に応えるべく献身する。
神聖さえ感じる純白の修道服に身を包み、陽射しを避けるように深く被ったフードの下、冷たさの帯びた淡く紅い瞳は彼らを見据えて、どんな感想を抱いているのか。

「……っ」

その口上に、この場に召集された者達の顔には一様に不安と戸惑いの色が浮かんでいた。
相手は『破滅の創世』の配下の一人だ。彼らがこれまで戦ってきた相手とは双肩にかかる重みが違う。
周囲に痛ましい沈黙が満ちた。

「それでも歯向かうというのなら……死せよ塵芥、この場で消し飛ばす」
「ここから先に行かせるわけには……!」

指揮官の男が抵抗の構えを取ったその時だった。

「……っ」

『破滅の創世』の配下である男から嘲弄が零れた。
その意図を指揮官の男が――大部隊の者達が掴むよりも早く異変が起きる。
電光火花が迸り、烈風怒涛が大気を揺らす。
滅びの歌が無慈悲に響き渡り、火焰(かえん)地獄(じごく)が大地を舐めつくした。
神に背いた者への断罪。
それは大地にひしめく大軍勢だとしても、ひとたまりもない。