「……不変の魔女、ベアトリーチェと『破滅の創世』の配下達。逃げ場はなさそうだな」

それはただ事実を述べただけ。
だからこそ、余計に司は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
神という脅威を甘く見積もっていた。
これが『境界線機関』の者達が現在の状況に追い込まれた要因の一つだろう。

このままではまずいな……。

『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何より機先を制した『破滅の創世』の配下達の動きが警鐘を鳴らした。

「ちっ、厄介だな」
「そんな……。どうやって、この場を切り抜けばいいの……」

慧と観月の反応も想定どおりだったというように、アルリットの表情は変わらない。

「うん、無理だね。一族の上層部はいつも固定観念にとらわれているからね。厳重警備態勢の中でも付け入る隙があるよ」

観月が抱いた疑問に、蒼い瞳の少女――アルリットが嬉々として応える。

「ねー、そこにいる、一族の上層部さん」
「……へえー。俺のことを気づいていたのか。こりゃ、盲点だったな」

アルリットの目に宿った殺意を前にしても、一族の上層部の男性――ヒューゴは余裕綽々という感情を眸に乗せる。
その背後には、一族の上層部の者達もいた。

「悪いが、これ以上、暴れられると本部が壊れるんでな」

ヒューゴはそう言い切ると、視線を司に向けた。

「不変の魔女、ベアトリーチェ、そして『破滅の創世』の配下達の力は強大だ。奏多様を守り抜くためには、俺達も協力し合った方がいいんじゃないか。そう思わねぇ?」
「そう思わないから断っているんだ」

司の率直な物言いに、ヒューゴはその唇に「相変わらず、否定的だな」と純粋な言葉を形取らせた。

「雄飛司。いい加減、状況を把握しようぜ。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、できる限りの揺さぶりをかけさせてもらう」

現状を把握したヒューゴは唇を噛む。
このまま、悪戯に時間を消費しても平行線だ。
何もしなくては『破滅の創世』の配下達の前に為す術もなく朽ち果てるだけだろう。
ならば、機先を制した方が確かだ。

「『破滅の創世』の配下達の動きを阻害する必要がありそうだな」

アルリット達を――『破滅の創世』の配下達を侮ってはいけない。
これまでの戦績を思えば、その事実は明白である。
そう判断したヒューゴは指示した。
すると間隙を突くように、一族の上層部の者達はアルリットを包囲する。