「ここから何としても逃れるぞ!」

死と隣り合わせの戦場から得られる経験は、訓練とは違った恐怖を伴うものであるが故なのだろう。
生き残らねばという執着が『境界線機関』の者達を支配していた。
それは消極的なものではなく。むしろ闘争心に火をつけるものであった。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは俺だ。何とかしないと……」

改めて戦局を見据えた奏多は置かれた状況を重くみる。
その時、奏多は異変に気づいた。

「慧にーさん、攻撃が来る!」

奏多がそう呼びかけた途端、通路の向こうから無数の光撃が飛んでくる。
彼女が招いたのは無慈悲に蹂躙する光。
結愛達には……悲鳴の声の一つすら上げる時間は与えられなかった。
その前に彼女が招いた致命的な光撃が結愛達へと放たれていたからだ。
だが――

「……っ」

次の瞬間、結愛達の視界は一変していた。

「……あっ」

結愛の前に、いつの間にか手をかざした奏多が立っている。
光撃の遠撃。それは寸分違わず結愛達に迫った、はずなのに。
それなのに――

「……奏多くん」

しかし、それによって伴われる絶大なる威力はこの場にいる者達に与えられることはなかった。
膨大な雷撃が結愛達に命中するその寸前に、奏多が片手でそれを弾いてしまったからだ。

「みんな、大丈夫か?」
「はい、奏多くん」

結愛達の身に唐突に訪れた窮地。
しかし、それは奏多が手をかざしたことで危機を脱していた。

「奏多、助かったぜ」
「本当に凄まじい力ね」

慧の言葉に呼応するように、観月は眸に不安の色を堪える。

「またもや、わらわの攻撃を防ぎよった。記憶を失った『破滅の創世』、厄介じゃのう」

身を呈して結愛達を守った奏多の姿を見て、ベアトリーチェは落胆する。

「あたし達から逃れようとしても無駄! 今度こそ確実に『境界線機関』を消滅させるよ!」

司を狙いに定めたアルリットは残像を残すほどの超加速で迫る。

「くっ……!」

司が瞬く間に、アルリットとの距離が一瞬で縮まった。

「これで終わりだよ!」

アルリットは司達を完全に消滅させるために膨大な力を解き放とうとする。
しかし――。

「悪いが、おまえ達の好きにさせるつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」

そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
だが、弾はアルリット達に命中する前に全て塵のように消えていった。
しかし、その行為によって、アルリットの猛撃は不発に終わる。