「『破滅の創世』様の幹部の一人なの?」
「ふむ……小娘、それは違うのう」

ベアトリーチェの返答に、観月の胸中に言い知れない不安がよぎる。

「わらわは別世界の女神。『破滅の創世』と同じ神じゃ」
「なっ!」
「えっ?」

あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、慧と観月は大きく目を見開いた。

「俺と同じ神……?」

思わず、息が詰まる。
奏多は当惑し、その言葉の意味を飲み込むのに時間がかかった。

「久しぶりじゃな。『破滅の創世』。わらわのことを忘れたとは言わせぬ」

空白。
あまりにも唐突な……ベアトリーチェの宣言に、奏多と結愛の思考が真っ白に染まってしまった。
数秒経って、ようやくひねり出せた言葉は微妙に震えていた。

「そ、それって……この人は、異世界の女神……」
「はううっ……」

まさかの展開に、奏多と結愛の心が揺さぶる。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。

「ふむ……わらわのことを思い出さぬか。神としての記憶を失っているというのは本当のようじゃな」

ベアトリーチェはそれを見越していたように微笑む。

「まあ、わらわとしては、久しぶりに『破滅の創世』に会えて嬉しいのう」

ベアトリーチェは、奏多に――『破滅の創世』に会えるだけで幸せであった。
彼女がそれを親愛と名付けたならば、親愛である。
友愛と名付けたのであれば、友愛である。
親愛も友愛も、彼女の言葉一つで意義を持つ。
詰まるところ、ベアトリーチェという女神にとって、人間の愛や正しさなど、どうでも良い判断材料であった。
神の言葉こそが天上の囁きであり、至高の頂きである。
神の望みこそが、真に人が叶えるべき目標であった。

「一族の上層部の本部から連れ出す手助けをしようかの」

うっとりと笑ったベアトリーチェの頬に朱の色が昇った。
『不滅』を意味するその名を有したベアトリーチェは女神である。
状況を手繰りながらも、前線に飛び出すのはあくまでも興味本位と信じるが故だ。

「……何だろ」

奏多は油断すれば湧き上がる想いを前にして俯く。
何故か、その想いを自覚したくはなかった。
その感情を認めたくはなかった。
言葉にしてしまえば、きっともうどうしようもなくなる。
喉の奥に膨れ上がる想いを決して言葉にするまいと無理矢理に呑み込もうとしたが――

「……懐かしい」

できなかった。
吐き出してしまった言葉に、奏多は途方に暮れる。