「なっ……?」

レンは奏多の前で膝をつく。
それはさながら騎士の示す臣従の礼のようだった。

「『破滅の創世』様、必ずや一族の者の手からお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
『破滅の創世』の神命が起点となって、この世界の運命は決まっている。
『破滅の創世』の配下達にとって、『世界の命運』は流れる水そのもの。
絶対者である『破滅の創世』のなすがままでなくてはならない。
だからこそ――

「あたし達がするべきことは『破滅の創世』様の望むこと。この世界にもたらされるべきは粛清だよ」

そう断じた聖花の――アルリットの瞳に殺気が宿る。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。
それと同時に何を引き換えにしても守り抜きたい存在だった。
だからこそ、『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。
神敵であると。

「『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

アルリット達はその為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。

「ちっ、目的はあくまでも奏多か……」
「ここまでご足労痛み入ります、『破滅の創世』様。そして、忌まわしき一族の冠位の者の方々」

慧の言葉に、随分と物腰丁寧な仕草でレンは礼をする。大仰に両の腕を広げながら。

「ここはご覧のとおりの状況で、お出しできるものも乏しいです。『破滅の創世』様がお戻りになられる特別な日に、礼儀として、おもてなしできないことが惜しいですね」
「『破滅の創世』様、待っていてね。あたし達、必ず『破滅の創世』様の記憶を取り戻すよ」

非常に温和なレンの声音に呼応するように、アルリットは喜ばしいとばかりに笑んでいる。
奏多の――『破滅の創世』の記憶が戻るのを待ちわびるように。

「どうして、ここにいることが分かったの?」

観月の素朴な疑問に、アルリットはレンに視線を移す。

「アルリットとリディアによって、『破滅の創世』様の居場所は把握できておりました。それに不変の魔女、ベアトリーチェ様のお力がありましたので」

ベアトリーチェの姿を認めてから、レンはにこりと微笑んだ。

「不変の魔女、ベアトリーチェ……」

ひりつく緊張が慧の首元を駆け抜けて行く。