「慧にーさん、攻撃が来る!」

奏多がそう呼びかけた途端、通路の向こうから無数の光撃が飛んでくる。
彼女が招いたのは無慈悲に蹂躙する光。
結愛達には……悲鳴の声の一つすら上げる時間は与えられなかった。
その前に彼女が招いた致命的な光撃が結愛達へと放たれていたからだ。
だが――

「……っ」

次の瞬間、結愛達の視界は一変していた。

「……あっ」

結愛の前に、いつの間にか手をかざした奏多が立っている。
光撃の遠撃。それは寸分違わず結愛達に迫った、はずなのに。
それなのに――

「……奏多くん」

しかし、それによって伴われる絶大なる威力はこの場にいる者達に与えられることはなかった。
膨大な雷撃が結愛達に命中するその寸前に、奏多が片手でそれを弾いてしまったからだ。

「みんな、大丈夫か?」
「はい、奏多くん」

結愛達の身に唐突に訪れた窮地。
しかし、それは奏多が手をかざしたことで危機を脱していた。

「奏多、助かったぜ」
「本当に凄まじい力ね」

慧の言葉に呼応するように、観月は眸に不安の色を堪える。

「もうここまで来たか。時間稼ぎもここまでみたいだな」

視線を張り巡らせた司は置かれた状況を重くみた。

「レンが言ったとおり、本当にここにいたねー」

不意にこの場にそぐわない朗らかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには三つの影があった。
その一人は――

「あ……」

紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。
ドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれ、常に柔らかな微笑を湛えている。

「冬城聖花……どうして……」

カードを手にした観月は恐れおののくように、その名を呼んだ。

「いや、アルリットだろうな。冬城聖花が相変わらず、この場にいるのは不思議な現象だな」

そう語りかける慧は揺るがない意思を表情に湛えていた。
何故なら――

「『破滅の創世』様、お迎えに参りました」
「レン……?」 

奏多の姿を認めてから、レンが噛みしめるように恭しく礼をしたからだ。
状況に思考が追いつかない。
そもそも、ここは一族の上層部の本部だ。
厳重な警戒態勢を敷いているはずだ。
『破滅の創世』の配下達が、この場にいる理由が奏多には分からなかった。
そして――

「久しぶりじゃな。『破滅の創世』。わらわのことを忘れたとは言わせぬ」
「えっ……?」

そう吐露した彼女――不変の魔女、ベアトリーチェの瞳と奏多の瞳が重なる。
その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。
ベアトリーチェの瞳はあまりにも深く、吸い込まれそうだったからだ。