「この戦いの趨勢と同じように、この世界の未来はまだ決まっていないさ。全て自分の手で掴み取っていくものだ!」

きっと慧は何度でも言うのだろう。
その不屈の果てに、自らが貫く信念があるのだから。

「……どうやら別の場所でも戦闘が行われているみたいね」

観月は遠くから響いてくる爆撃の音に緊張を走らせる。
立て続けに聞こえたのは数発の破裂音と、何かが爆発したような黒い煙。
空には赤々と炎が舞い上がっていた。





『破滅の創世』の配下達――。

それは人智の及ぶ存在ではない。
それは人の営みに害し得る、あるいは人の営みで抗し得る存在ではない。
それは生まれついた時から絶対的である。
其は神の愛し子。
――『破滅の創世』の配下達がそんな風に謳われたのは問答無用の真理としてただ、偉大であったからに違いない。
そんな相手に胸を掻きむしられる想いで対峙する者も居ただろう。

『破滅の創世』の配下達は胸の内に恐るべき憎悪を滾らせていたのだから――。

数多に存在する多世界――そこに住む者達の中には一族の者達のことを恨んでいる者も多かった。特にこの世界の者達は半分以上がよく思っていない。
そもそも一族の者達が強い力を欲するあまり、三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』の力を手に入れようとしたことが全ての発端だったからだ。
目の前で血の通った家族を、友達を、仲間を、自分の世界を形作るかけがえのない人達を、理不尽に傷つけられ、犯され、弄ばれる現実がそこかしこに転がっている。
いや、恐らく、この場所だけではない。
この世界の各々で目も当てられてない悲劇に襲われている誰かが今もこの瞬間にいるのだ。

「俺達の帰る場所、なくなっちまった……」

生き延びた者達は黒煙の闇に横たわる住宅街をぼんやりと見つめていた。
この世界はもはや弱い者を、力の無い者を淘汰するように変わってきてしまっている。
そんな世界になるかもしれない、その懸念を知ろうともしなかった一族の者達の矜持が穏やかな平和を――平穏な生活を過ごしていた人々の日常を壊した。
その代償に彼らが受けることになった痛みは、悲しみは、今ではありふれた悲劇の一つでしかない。
それを導いた一族の者達こそが諸悪の根源である。
彼らはそう信じて疑わなかった。
しかし――

一族の上層部、この状況を創り出した大元とも言える要因。

彼らは数多の世界そのものを改変させることが可能な全知全能の神――『破滅の創世』を手に入れている。

神の魂の具現として生を受けた奏多。

無限の力を持つ神の加護。これにより、一族の上層部はおおよそ昔からは想像つかないような絶大な力を獲得していた。