神奏のフラグメンツ

レン達が、一族の上層部の本部に潜入する手段を勘案していた頃。

「ふー、奏多くん。本部の入口にようやくたどり着きましたよ」

巨大な一族の上層部の本部の入口の前で、結愛は大きく伸びをする。

「巨大すぎて、入口までの距離が果てしなかったです」
「本当だな」

結愛の言い分に、奏多は途方に暮れたようにため息を吐いた。

「『境界線機関』の基地本部よりも大きいな。まるで超高層ビルみたいだ」
「はい。最上階はすっごーく果てしないです!」

奏多の戸惑いに元気の良い返事が返ってくる。結愛の食いつきが半端ない。

「さささ、どうぞどうぞ、奏多くん。一族の上層部の本部の案内は任せてください」

目標が定まったことで、結愛は熱い意気込みを見せた。

「あら、結愛は元気いっぱいね」

元気溌剌な結愛の――妹の様子に、観月は満足げな表情を浮かべる。
幼い頃、世界のあらゆることに怯えていた妹は、今ではいつだって勢いで奏多のもとに走って行く。
躊躇うことだって知らない彼女はまっすぐに生きているのだ。
だからこそ、観月が心配になることは多い。

「でもね、結愛。一族の上層部の本部に入ったことはないから、きっと迷うと思うわ」
「ううぅ……厳しいです」

観月の念押しに、結愛はしょんぼりと意気消沈する。

「奏多様、こちらです」
「結愛、行こう!」
「はい、奏多くん。今度は絶対に道を間違えませんよ」

『境界線機関』のリーダーである司は一族の上層部の本部の案内人に適していた。
司は、一族の上層部の本部に何度も足を運んだことがある。
『境界線機関』の者達も、奏多と結愛の身を護りながら一族の上層部の本部へ突き進む。
やがて、奏多達の視界に巨大なエレベーターが見えてきた。

「奏多くん、このエレベーターから、一気に最上階に行けるみたいですよ」

結愛が指差す先を見据えれば、エレベーターの押しボタンが見えてくる。

「かなり速そうだな……」
「はい、奏多くん」

奏多と結愛は最上階の押しボタンを見て、安堵の胸をなでおろす。
喜びも束の間、慧は確認するように置かれている状況を踏まえる。

「何とか、ここまで来れたな」
「ああ。だが、ここも安全ではない。一族の上層部の者達が待ち構えている可能性がある」

司は警戒を示すように言葉を切った。
周りの景色が妙に寒々しいものに思える。まるで張り詰めた緊張感に身震いするようだ。
この状況は誰かの悪意に彩られて作られているような、そんな予感さえも感じられる。