レンは『境界線機関』の基地本部に潜入した時のことを思い出す。

『此ノ里結愛さん。一族の者である……あなたが、『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど、あってはならないのです』
『そんなことないです! 明日、今日の奏多くんに逢えなくても、私は明日も奏多くんに恋をします! 怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!』

レンが嫌悪を催しても、結愛は真っ向から向き合う。

『奏多くんが大好きだから!』

最後まで自分らしく在るために――結愛は今を精一杯駆け抜ける。
それは結愛なりの矜持だった。

「これから何をしようと一族の者の罪が消えるわけではないのです。私達が決して許さないことが、彼らの罪の証明となる」

平坦な声で、レンはあの日の結愛の決意を切り捨てた。

「それなのに、此ノ里結愛さん。一族の者である……あなたが、『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど、決してあってはならないのです」

結愛の決意に、レンは嫌悪を催した。

「『破滅の創世』様をお救いするために、まず滅ぼすべきなのは此ノ里家の者。そして――」

レンは改めて、誓いを宣言する。

「……此ノ里結愛さん。これ以上、『破滅の創世』様に関わらせるのは危険ですね」

揺れるのは憂う瞳。それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「あの人間は、『破滅の創世』様に害を為す存在です」

結愛が、奏多の――『破滅の創世』の導き手になっている。
その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げるレンは明確なる殺意を結愛達に向けていた。

「だから、その存在を根絶やしにしてから、この世界を滅ぼすというのじゃな」
「……はい」

ベアトリーチェの確認に、レンが深刻な面持ちで告げる。
苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。

「此ノ里結愛さん。まずは『破滅の創世』様を惑わすこの人間から滅ぼしましょう。『破滅の創世』様、必ずや一族の呪いからお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。

そう――もうすぐで手が届くのだ。
『破滅の創世』の配下達にとって、唯一無二の願い。
神として生きたい。
それを奏多が選ぶだけで――。

『破滅の創世』が示した神命。
それは絶対に成し遂げなくてはならない。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。

『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。
その御心に応えるべく献身していた。