「これから向かう場所は、一族の上層部の本部。戦いの場はいくらか整えたいところだな……」

司は警戒を示すように言葉を切った。
周りの景色が妙に寒々しいものに思える。まるで張り詰めた緊張感に身震いするようだ。

「つーか、既に一族の上層部は、俺達がここに来たことに気づいているみたいだぜ」
「俺達の存在に気づいているのか……?」

確かめるようにつぶやいてから、奏多の眸が驚きの色に変わる。
違和感を感じた、といえば簡単なことだが、慧の表情には確信めいたものがあった。
それが事実であると――。

一族の上層部の本部に近い空港。
監視カメラがあらゆる場所にあるみたいだな。

慧達を観察するのはおぞましいほどの作為。
この感覚は今まで散々味わっている。一族の上層部による監視だ。
まるで一族の冠位の者は、一族の上層部に逆らうことができないことを強調するように、慧達のこれからの行動を白日の下に晒そうとしている。

「随分と悪辣だな。まぁ、一族の上層部らしいやり方だけどな」
「そうね」

慧の言い草に、観月はふっと微笑む。
如何に取るに足らない存在でも警戒を怠らない。
それが一族の上層部の一人である聖花の矜持なのだろう。
『境界線機関』の者達は、奏多と結愛の身を護りながら基地本部へ突き進む。

「あっ……」
「本部が見えてきましたよ!」

やがて、奏多と結愛の視界には、巨大な一族の上層部の本部が見えてきた。





この世界に存在するとある邸宅。
その邸宅に『破滅の創世』の配下達は集っていた。
アルリットとリディアも、先程の戦いの状況報告のために帰還している。

「一族の上層部の者には、お初にお目にかかる方が多いでしょう。今回、アルリットとリディアが遭遇した、一族の上層部の一人、不死のヒューゴ。『不死者にする能力』と『攻撃を無効化する能力』。二つの能力によって、私達の力に対処してきました」

柔らかく自然体にそう礼を示したレンは藍色の瞳に少しばかりの警戒を乗せている。

「……一族の上層部が、私達に対抗する手段を持ち得ていたことは私達、幹部の者にとっても大いに痛手でした」

『破滅の創世』の配下の者達の中でもひときわ常軌を逸している存在が『幹部』と呼ばれる者だ。
『忘却の王』ヒュムノスと『蒼天の王』アルリット、そしてこの場を仕切っているレンもまた、幹部の一人である。