「本当におまえはこのままでいいのか」

そう語りかける慧は揺るがない意思を表情に湛えていた。

――世界を正すために犠牲が付きものだ。

そんな言葉に頷いてはいられない。未来のために世界一つ分の犠牲を孕む可能性を今、見過ごせるだろうか。

「俺は……」

奏多には躊躇いがある。不安もある。
真実は何よりも残酷な凶刃と化しているのだから。

自分が『破滅の創世』と呼ばれる最強の神の具現である。

その事実は鋭利で、それを知った奏多の心を今も激しく揺さぶっている。
これからどうすればいいのか、その答えを見出だせずにいた。
だからこそ――

「奏多、ここから先はおまえ自身でじっくりと考えな。まぁ、もう考えていて自分なりの答えを見つけようとしているような顔をしてはいるみたいだけどな」

慧の物言いは奏多を導くようにどこまでも静かだった。
まだ、奏多の心は進む『前』なのだということを知っている。
自分もまた、呪いともいえる宿命に翻弄されていた時期があったのだから。

「観月、後方は頼むぜ!」
「分かったわ」

慧は観月と力を合わせて敵の迎撃に専念する。
今度こそ、守り抜くと決意を固めて――。

『破滅の創世』の配下達。
これまでも世界各地で暗躍していたが、ここにきて本格的に『破滅の創世』である奏多を取り戻そうという動きが見られる。
今、この場にいるのはリディアとアルリットだ。
もっとも暴れ出したら見境いなしの『破滅の創世』の配下の者もいる。
少なくともここに出向いたのが彼女達だったおかげで、幸か不幸か都市そのものが壊滅するという状況にはなっていない。

「愚かなものだ……」

そう告げるリディアは明確なる殺意を慧に向けていた。

「このような戯れ言で『破滅の創世』様をたぶらかせると思っているとは」
「『破滅の創世』様を惑わそうとしても無駄! あたし達、『破滅の創世』様のためなら何でもするよ!」

リディアとアルリットの胸から湧き上がってくるのは鋭く尖った憤りのみ。
『破滅の創世』の言葉の完遂のためにただ、狂おしく誓うだけ。
同時にそれは彼女達が不退転の反撃を示す最大の難所であることを意味していた。

「アルリット。そういえば、もう一つ遂行しなければならないこととは何だ?」
「ケイを今度こそ確実に消滅させることだよ」

リディアの素朴な疑問に、アルリットは胸の内に決意を滾らせる。

「ねー、ケイ」
「居残る理由が随分、個人的な理由だな。そういうところもあの頃と変わっていないみたいで嬉しいぜ、アルリット」

慧は奏多と結愛の身を第一に考え、自らが敵を引きつける形で戦場を制する。
一族の者達が力を振るうために必要な時間を稼いで場を整えた。