「……一族の上層部の者達は今のところ、見当たらないな」
「この飛行機なら本部の近くまでいけるけど、今度は上空から『破滅の創世』の配下達が襲ってこないとは限らないわ」

慧と観月は後方の奏多と結愛を守りながら搭乗口を抜け、機内へと入る。
機内を歩きながら、観月は改めて切り出した。

「司は、本部には何度も足を運んだことがあるのね。この空港からだと、時間はかかるの?」
「いや。そこまでは時間はかからないはずだ」

観月の的確な疑問に、司は渋い表情を見せる。

「ただ、先程の空港よりは時間がかかる。一族の上層部は『破滅の創世』様の神としての権能の一つである『神の加護』を有している。その力によって、今まで一族の上層部の本部は秘匿されていたからな」

だからこそ、一族の内情に詳しい『境界線機関』のリーダーである司は本部の案内人に適していた。
一方、機内をきょろきょろと見渡していた奏多と結愛を、客室乗務員が誘導する。

「川瀬奏多様と此ノ里結愛様のお席は、こちらです」
「結愛、行こう!」
「はい、奏多くん」

奏多の呼びかけに、結愛はルンルン気分で席に向かう。

「やっぱり、この空港も乗務員全員に、奏多様達の情報が行き届いているのか。事前に伝えていたとはいえ、ここまで情報が伝達しているのは一族の上層部の仕業だろうな」

本来なら『破滅の創世』である奏多を、一族の上層部の本部に踏み入れさせるべきではないかもしれない。
それでも司は奏多と結愛の意思を尊重した。
信じるに足る光を、司は奏多達の中に見たのだから。





一族の上層部の本部に向かう中、飛行機の機内は静寂に包まれていた。
予想に反して、飛行中に慧達が危惧していた奇襲はなかった。

「ふー、ようやくたどり着きました」

一族の上層部の本部の近くにある、大きな空港の前で、結愛は喜色満面に大きく伸びをする。
避難所としても設けられているようで、多くの人達が荷物を運ぶために行き来しているのが見受けられた。

「父さんと母さん、無事だよな」
「心配です……」

奏多と結愛の気がかりは両親の安否だ。
スマートフォンで連絡を取りたくても、一向に繋がらない状態だったのだ。

「あっ……奏多くん、メール、送れましたよ。やっと、スマートフォンが使える環境になりました」

それが新鮮なのか、結愛はくっーと胸が弾ける思いを噛みしめる。

「んもぉー、今まで大変でしたよ……。お父さんとお母さんに電話をかけても通じないし、メールを送ろうとしても送信できなかったのは困りものです」
「それだけ大変な事態だったんだろ」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。