「一族の上層部の本部。どんな場所なんだろうか」
「気になります……」

奏多と結愛の気がかりは、本部に赴いた時の一族の上層部の動向だ。

「一族の上層部は、私達の出方をどう思っているのかしら……?」

そう口火を切った観月は懸念を眸に湛えたままに重ねて問いかける。

「このまま、待っているつもりなのかしら?」
「いや、そんなわけねぇだろう。この状況になることを予め、推測していた、と考えるべきだ」

状況を踏まえた慧はそう判断する。

「むしろ、この空港でまた、一族の上層部が待ち構えている可能性が高いな」

一族の上層部の矜持。
その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。

「それに『破滅の創世』の配下達の狙いは奏多様。この空港で再び、『破滅の創世』の配下達が襲ってこないとは限らないわ」

観月の胸中に言い知れない不安が蘇った。

「一族の上層部と『破滅の創世』の配下達が、私達に何も仕掛けてこないはずはない」

観月は周囲への警戒を強める。
『境界線機関』が警護に当たっている状況。
とはいえ、いずれは『破滅の創世』の配下達の妨害によって、目的の遂行は阻まれてしまうだろう。
それに慧と観月は一族の上層部に逆らうことができない理由がある。

「まぁ、奏多のおかげで、俺がヒューゴに操られることはなくなった。だが、あの『不死者にする能力』で、俺が生き返ったという事実は変わらない」
「奏多様を護るための一番の障害は、私達かもしれないわね」

それはただ事実を述べただけ。
だからこそ、余計に慧と観月は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
神の力を行使できる今の奏多が完全に『破滅の創世』の記憶を取り戻そうとする可能性よりも、実際は一族の上層部が彼らを脅すためにそれを盾にしてくる可能性の方が高かった。
ヒューゴは、慧を蘇えらせた上で不死者にして利用している。
観月は、いまだ親友のまどかの洗脳が解けていない。
そして、一族の上層部の企みもいまだ不明のまま――。
奏多達の胸中は混迷をきわめていた。
搭乗手続きを終え、出発ロビーに向かう。

「よし、搭乗ゲートに向かおう」

司の号令の下に、一族の上層部本部へと多くの意志が踏み込む。
奏多達、そして『境界線機関』の者達が飛行機の機内へと。
過去を乗り越えるために、本部に向かおうとする者。
一族の上層部の本部の内部の把握を心に定めている者。
その事情は様々だろうが――とにかく誰も彼も一族の上層部の本部へ向かう心算なのは間違いなかった。