「空港で待ち構えていた一族の上層部の者達。彼らは、一族の上層部側の新手と見なした方がいいか」

流石にそう簡単には引いてくれないかと、司は思考を巡らせた。

「今のところ、他の『破滅の創世』の配下達が派手に動いていないのは、こちらの出方を観察しているからか」
「……もしかすると、俺達が本部に行くのを待っているのかもしれねえな」

司と慧は瞳に意志を宿す。
『破滅の創世』の配下達と一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。
決して譲れない想いがあった。
一族の上層部が奏多を早急に連れていこうとしたことといい、何かを急いでいるのは確実だ。
ヒューゴが立ち塞がってきたという事実は、如実に一族の上層部に監視されていると考えてもいい。
だが、一族の上層部の最終的な目的が読めない。

「皆さん、これ以上は行かせませんよ! 私達にとって、奏多くんは大切な存在です!」
「……結愛!」

乗客達が無理やり、アンデットにさせられている。
結愛は勇気を振り絞り、奏多のもとに向かおうとして。

「此ノ里結愛さん。あなたの相手はわたし達です」
「はううっ……」

一族の上層部の者達の妨害に、結愛はわたわたと明確に言葉を詰まらせた。

「そうさ。今の『破滅の創世』様にとって、此ノ里結愛の生死は何よりも重要だろう」 

奏多の姿を認めてから、ヒューゴは薄く笑みを浮かべて言った。

「……はううっ、重要?」

それはただ事実を述べただけ。
しかし、ヒューゴの言葉は、結愛には額面以上の重みがあった。

「あと、あの……できれば、重要だけではなくて」
「結愛?」

それを願うのは欲張りだと思いながらも、結愛には離れがたい気持ちだけが増していく。

「奏多くんの未来のお嫁さんになりたいです!」
「……っ」

結愛が覚悟を決めて、奏多を切望する。
その独占じみた想いに、奏多の胸が強く脈打った。

「馬鹿な、あり得ない!」

驚きと戸惑いを滲ませた声で、リディアは結愛の決意を切り捨てた。

「一族の者は『破滅の創世』様に目を付けて、今も私欲のために利用しようとしている愚か者だ」

これから何をしようと一族の者の罪が消えるわけではない。
『破滅の創世』の配下であるリディア達が決して許さないことが彼らの罪の証明となる。

「ふざけるな! 人間が……ましてや一族の者が『破滅の創世』様にそのような願いを抱くなど――」
「ふざけていませんよ! 明日、今日の奏多くんに逢えなくても、私は明日も奏多くんに恋をします! 怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!」

リディアが嫌悪を催しても、結愛は真っ向から向き合う。
最後まで自分らしく在るために――結愛は今を精一杯駆け抜ける。
それは結愛なりの矜持だった。