「その理由は、おまえ達の方が分かるんじゃないのか?」

そう口火を切ったヒューゴは、笑みをたたえたままに重ねて問いかけてくる。
微かに。思考を過ぎる何か。

「もしかして……」

戦線の把握に務めていたアルリットは気づく。

「リディア。一族の上層部さんは、あたし達に勝つのが目的じゃない。この場に足止めすることだよ」

そう口にしたアルリットはこの数手の攻防だけで、一族の上層部の者達の手強さを肌で感じ取っていた。
ヒューゴは今、完全に待ちに徹している。
それは奏多を、自分達が代表して本部まで連れていくことを狙ってのもの。
『破滅の創世』の配下の力は強大だ。その上、不老不死である。何かあれば、勝敗の天秤はアルリット達に傾く。
だからこそ、ヒューゴは焦らない。
彼は敢えて、アルリット達をこの場に留めることを狙っていた。
自らを『囮』とすることで、『破滅の創世』の配下達と『境界線機関』の者達が対立するように仕向けるという戦術的な利用を用いてきたのである。

「慧にーさん……!」

奏多はフォローに回るために、慧のもとに駆け寄ろうとしたが。

「おっと、『破滅の創世』様はこちらだ! 逃がすつもりはないぜ!」

その前にヒューゴが立ち塞がる。

「このまま、俺達が代表して、『破滅の創世』様を本部までお連れする。おまえら、『境界線機関』の者達は仲良く、『破滅の創世』の配下達の足止めでもしてろよ」

ヒューゴが発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令だった。

「俺達? アンデットに変えられた乗客のこと?」

先程までは気に止めなかった言葉が、観月の耳に入った。
ヒューゴの能力。死んだ者をアンデット、つまり不死者にすることができる。
ヒューゴは飛行機の墜落で亡くなったはずの人達を、まるでアンデットのように蘇らせている。
その者達を含めて、『俺達』と口にしたと思ったのだ。
だが――。

「奏多様。今回の飛行機墜落事故の件を受けて、お迎えに参りました」

空港で待ち構えていた一族の上層部の者達が姿を現したことで、その考えを改める。

「これって一体……」
「なるほど。飛行機が墜落したことを受けて、この場に来たんだな」

奏多の疑問に、司は置かれた状況を説明する。

「その通りです。飛行機が墜落した以上、我々も悠長に本部で待ち構えているわけにはいかなくなりました。前にお伝えしましたとおり、この世界に危機が迫っていますので」

そう前置きして、一族の上層部の者達は奏多を出迎えた。