「ここを切り抜ければ、俺はおまえ達とは別行動を取ると約束する」
「――白々しいな」

ヒューゴのその問いかけに――応えたのは司だった。

「別行動すると思わないから断っているんだ」

司の率直な物言いに、ヒューゴはその唇に「即答だな」と純粋な言葉を形取らせた。

「雄飛司。おまえの情に熱いところは、いつか本当に命取りになるぜ。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、できる限りの揺さぶりをかけさせてもらう」

現状を把握したヒューゴは唇を噛む。
このまま、悪戯に時間を消費しても平行線だ。
何もしなくては『破滅の創世』の配下達の前に為す術もなく朽ち果てるだけだろう。
ならば、機先を制した方が確かだ。

「慧にーさん……!」

奏多は慧のもとに駆け寄ろうとしたが。

「おっと、『破滅の創世』様はこちらだ! 逃がすつもりはないぜ!」

その前にヒューゴが立ち塞がる。

「このまま、俺達が代表して、『破滅の創世』様を本部までお連れする。おまえら、『境界線機関』の者達は仲良く、『破滅の創世』の配下達の足止めでもしてろよ」

ヒューゴが発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令だった。

「……っ」

有無を言わさない形で、奏多を人質に取られた状況。
思わぬ事態に、司は表情を曇らせる。

「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。

「――っ!」

たったそれだけの動作で、『境界線機関』の者達を楽々と弾き飛ばした。
喰らった力の凄まじさは『境界線機関』の者達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。

「凄まじいねぇ。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、この場から逃げさせてもらう!」

しかし、置かれた状況を踏まえたヒューゴは、即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。

「『破滅の創世』様には、これからも川瀬奏多様として生きてもらわないといけないからな」

そう――もうすぐで手が届くのだ。
一族の上層部にとって、唯一無二の願い。

人間として生きたい。
それを奏多が選ぶだけで――。

このまま『破滅の創世』を人という器に封じ込め続け、神の力を自らの目的に利用するという一族の悲願こそがこの世界を救う唯一の方法だと一族の上層部は知っているのだから。