「罪代を払え。愚者の理解はいらぬ。ただ現実を示すのみ」

口にしたそれは自分が発したとは思えない無機質な、しかし懐かしさを感じさせる声だった。

三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしない。
弁解も反論も必要ない。故に人々は諾々としてそれを受け入れるしかない。
だからこそ、奏多はこの世界全てにあまねく終焉を告げようとして――。

「奏多くん……?」
「あ……」

戸惑いを滲ませた結愛の声が、忘我の域に達しかけた奏多を現実に引き戻す。

「ゆ……結愛……」

その瞬間、様々な負の感情が押し寄せてくるようで――奏多は頭を押さえて膝をつく。

「はううっ。……か、奏多くん、大丈夫ですか?」

そんな奏多の様子を見て、駆け寄った結愛は顔を青ざめる。
奏多の突然の異変、そして先程の奏多の物言いが、まるで大きな意思――神の裁きによって下される罰のように聞こえたからだ。
しかし、結愛が生じた不安とは裏腹に、リディアは息を呑み、短い沈黙を挟んでから宣言する。

「御意のままに。一族の者には相応の報いを受けてもらうだけだ」

リディアは我が意を得たとばかりに微笑んだ。
奏多が『破滅の創世』だと確証を得られたことも大きかったかもしれない。
リディアにとっての正義とは即ち『破滅の創世』の言葉の完遂である。
その想いを、何時の日か結実させることだけを己に誓って。
立ち上がったリディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。

「――きゃっ!」

たったそれだけの動作で、リディアは結愛とその周囲にいた一族の者達を楽々と弾き飛ばした。
喰らった力の凄まじさは結愛達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。
衝撃の反動で、結愛の所持していたカードが周囲に散在する。

「このカードも違うか。アルリット、『破滅の創世』様の記憶のカードはこの人間も持っていない」

カードを拾い上げたリディアはそれが目的のカードではないことに表情を歪ませた。そして、別の場所で戦闘を繰り広げているアルリットへと目を向ける。

「そっか。リディア、ちょっと待って、もう一つ遂行しなきゃならないことがあるから」

そう言うアルリットは目的のカードがなかったことに落胆していない。
むしろ、『破滅の創世』である奏多の神命をリディアとともに直々に聞けたことが喜ばしいとばかりに笑んでいる。
奏多が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなくてはならない。

「『破滅の創世』様は相変わらずご立腹だな。まぁ、神のご意思はそう簡単には変わらんか」
「……そうね」

身に覚えのあるその――奏多の神意は、もうずっと前から下されていた過去からの警鐘。
それでもアルリットと相対していた慧と観月はやりきれない思いを強く匂わせていた。