「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です。だから、信じてください。奏多くんの心で見てきたものを。感じたことを。きっと……それが奏多くんの力になってくれるはずです!」
「俺の心で……」

その言葉に奏多の目の奥が熱くなる。体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。

――そうだ、きっと。
この想いが、慧にーさんを救うための第一歩。

だから、言いたい言葉は決まっていた。
これが虚勢であっても構わない。
今はそれでいい。
内側から湧き上がる神の意思なんて、今は聞いていられない。

「俺は、結愛と――みんなと離れたくない。自分自身の手でこの幸せを手離したくない」

奏多は信じている。自分自身の力と未来を。
人は自らの足で歩いている。独りではなく、手を取り合って。

「痛くても苦しくても怖くても、この感情から逃げたくないから」

奏多は聞いていた。数多の旋律を束ね、神奏を天へと放つ。数多の人々の想い。その旋律は永久に紡がれるはずだと。

「俺も……これからも結愛と一緒にいたいからさ」

言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。

「はううっ。……い、今の、もう一度、言ってください!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「今のって、結愛と一緒にいたい、ってやつか……」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「結愛と一緒にいたい」
「きゃーっ」

温かな眼差し。この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が春の温もりのように感じられて。
奏多は強張っていた表情を緩ませた。

「……結愛、ありがとう」
「奏多くん」

奏多は一度だけ目を伏せ、そしてまた結愛をまっすぐに見つめる。

「俺の――『破滅の創世』としての力で、慧にーさんを救ってみせる!」
「奏多くんなら、必ずできますよ」

結愛はぽつりと素直な声色を零す。
ありふれた何気ない日常こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。
二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。

「奏多……」
「慧にーさん」

奏多は改めて、慧と向き合う。
これからどうすればいいのか、確固たる解答はまだ出ていない。
だが、慧の言葉の意味はもう理解できていた。
怖れを越えなければ、得られない何かがあることを知ったから。
この胸に輝く意思が、何よりもそれを証明しているのだから。

「俺は絶対に、慧にーさんの呪いを解いてみせる!」

奏多は裂帛の気合いを込める。
自身の力を解き放とうとして――。

「くっ……。動けない……」

奏多は油断すれば湧き上がる想いを前にして思わずうつむく。
渦巻く不安はどうしようもなく膨らんでいくばかりだ。