「奏多、助かったぜ。それにしても、ようやく自由に動けるようになったな」

慧は安堵するものの、改めて自分が犯した行動を思い出す。

「みんな、すまない。迷惑をかけてしまってさ」
「慧にーさん……!」
「良かったです!」
「慧……無事で良かったわ」

苦悶の表情を浮かべる、いつもどおりの慧の姿。
それを見て、奏多と結愛、そして観月は眸に喜色の色を堪える。

「何とか、奏多様の力で難を逃れることはできたが……状況は最悪だな」

視線を張り巡らせた司は置かれた状況を重くみた。
『破滅の創世』の配下達との戦いはこの世界に未曾有の惨事を引き起こしている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界に滅びをもたらす存在で在り続けていた。
此度の戦場も、飛行機が一瞬で墜落するという蹂躙とでも呼ぶべき光景があった。





「……っ」

曖昧だった意識が浮上していくにつれて、指先や背中の触感も戻ってくる。
ヒューゴの身に一番最初に訪れたのは痛みだった。
全身をくまなく覆う痛みと倦怠感。

「相変わらず、『破滅の創世』の配下の力は強大だな。蒼天の王アルリットが、俺の能力に目をつけたことが生死を分けたってわけか」

ヒューゴは状況を踏まえながらも、完全に置いていかれた状況。
人間を超えた存在が超越の力を振るえば、人間には認識しようがない。
本来なら直撃を喰らったヒューゴが生きていることなど、万に一つもあり得ない。
だが、ヒューゴはアルリットが欲している不死の能力を持っている。
だからこそ、リディアは意図的にヒューゴを生かす一撃を放ったのだろう。

「司、死ぬなよ」

慧の心からの願い。
その眼差しはまっすぐで、強い意志の光に満ちていた。

「当たり前だ。ここで死ぬつもりはない。洗脳が解けたばかりだ。おまえこそ、無理はするな」

それは司とて同じ。慧達に対して同じ想いを抱いている。

「……まぁ、今の俺達のやるべきことは一つ。この状況を凌いで、本部に赴くことだけさ」
「そうだな……」

慧と司は瞳に意志を宿す。『破滅の創世』の配下達の、そして一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。決して譲れない想いがあった。

「まだ、これからだ」

身を割くような痛みが迸っている。だけど、慧の顔にあるのは笑顔だけだ。

「奏多。もう二度とおまえを犠牲にするつもりはないからな。たとえ、再び操られても、絶対に守ってみせるさ」

奏多を見つめる慧の眼差しはどこまでも優しかった。