「――っ。慧にーさん!」
「奏多! くそっ! 身体が勝手に!」
必死の抵抗もむなしく、慧は奏多を捕らえて離さない。
「奏多くん!」
「奏多様!」
予想外の展開に、結愛と観月が悲鳴を上げる。
「だからさ」
そう告げると、ヒューゴは一度、深呼吸をして司の前に立った。
事を始める前に確認はしておきたかったからだ。もし、その可能性があるならば、この戦いは回避できる。
「いい加減、全ての戦力を放棄して、一族の上層部に従えよ」
一瞬、司は戸惑うような気配をみせたが、緩やかに首を振った。
「断ると言ったら?」
司の言葉を予測していたように、ヒューゴはにやりと笑う。
「なら、このまま、俺達が代表して、『破滅の創世』様を本部までお連れする。おまえら、『境界線機関』の者達は『破滅の創世』の配下達の足止めでもしてろよ」
司の疑問に発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令だった。
「……っ」
奏多と慧を人質に取られた状況。
思わぬ事態に、司は表情を曇らせる。
司を始め、『境界線機関』の者達は一族の上層部を毛嫌いしているようだが、しかし、その働きに感謝をせぬような無礼者でもなかった。
一族の上層部もそれを理解している。
奇妙な協力関係は、しかし利害の一致という危うい綱引きの上で成立していた。
「それにさ、俺達が有している神の加護の前では、おまえ達の抵抗など無力だ」
ヒューゴから紡がれる声色に宿るのは面白がるような含み笑い。或いは嘲笑とも感じられようか。
今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
しかし、それ以外の者達は神の加護を防ぐ手立てはない。
ヒューゴがその気になれば、乗客や乗務員達を洗脳して追い詰めることも可能だろう。
このままではまずいな……。
『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何よりヒューゴの余裕のある佇まいが警鐘を鳴らす。
司とヒューゴ。互いに緊迫した空気が流れたその刹那――
「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」
そう告げるアルリットは明確なる殺意を慧に向けていた。
「愚かなものだ。このような場所で仲間割れを始めるとは」
口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
リディアは忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。
「『破滅の創世』様……!」
そう吐露したリディアの前に、慧は奏多を捕らえたまま、立ち塞がる。
「ちっ、また、身体が勝手に!」
慧はヒューゴが逃れる猶予を作るようにリディアに向けて発砲した。
弾は寸分違わず、リディアに命中するが、すぐに塵のように消えていく。
「奏多! くそっ! 身体が勝手に!」
必死の抵抗もむなしく、慧は奏多を捕らえて離さない。
「奏多くん!」
「奏多様!」
予想外の展開に、結愛と観月が悲鳴を上げる。
「だからさ」
そう告げると、ヒューゴは一度、深呼吸をして司の前に立った。
事を始める前に確認はしておきたかったからだ。もし、その可能性があるならば、この戦いは回避できる。
「いい加減、全ての戦力を放棄して、一族の上層部に従えよ」
一瞬、司は戸惑うような気配をみせたが、緩やかに首を振った。
「断ると言ったら?」
司の言葉を予測していたように、ヒューゴはにやりと笑う。
「なら、このまま、俺達が代表して、『破滅の創世』様を本部までお連れする。おまえら、『境界線機関』の者達は『破滅の創世』の配下達の足止めでもしてろよ」
司の疑問に発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令だった。
「……っ」
奏多と慧を人質に取られた状況。
思わぬ事態に、司は表情を曇らせる。
司を始め、『境界線機関』の者達は一族の上層部を毛嫌いしているようだが、しかし、その働きに感謝をせぬような無礼者でもなかった。
一族の上層部もそれを理解している。
奇妙な協力関係は、しかし利害の一致という危うい綱引きの上で成立していた。
「それにさ、俺達が有している神の加護の前では、おまえ達の抵抗など無力だ」
ヒューゴから紡がれる声色に宿るのは面白がるような含み笑い。或いは嘲笑とも感じられようか。
今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
しかし、それ以外の者達は神の加護を防ぐ手立てはない。
ヒューゴがその気になれば、乗客や乗務員達を洗脳して追い詰めることも可能だろう。
このままではまずいな……。
『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何よりヒューゴの余裕のある佇まいが警鐘を鳴らす。
司とヒューゴ。互いに緊迫した空気が流れたその刹那――
「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」
そう告げるアルリットは明確なる殺意を慧に向けていた。
「愚かなものだ。このような場所で仲間割れを始めるとは」
口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
リディアは忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。
「『破滅の創世』様……!」
そう吐露したリディアの前に、慧は奏多を捕らえたまま、立ち塞がる。
「ちっ、また、身体が勝手に!」
慧はヒューゴが逃れる猶予を作るようにリディアに向けて発砲した。
弾は寸分違わず、リディアに命中するが、すぐに塵のように消えていく。