「戯れ言じゃないですよ! 本当の本気の本物です!」

そう意気込んだ結愛とリディアの視線が再び交差する。

「好きな人ができるっていいですね。世界が変わるんです。戦うことが怖くても、奏多くんが傍にいるだけで勇気が湧いてきます!」

奏多の傍にいるだけで甘く優しい幸福に満たされる。
ふわりと色とりどりの色彩が結愛の胸中を包み込む。

「一族の者が『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど、愚かだ。無為だと知れ!!」

連綿の攻防の最中、リディアが宙に顕現させた数多の光の槍を投擲(とうてき)する。

『破滅の創世』が定めし世界を歪めた一族の者達に天罰を与えて、『破滅の創世』の意志を遂行する。
この世界の淀んだ流れを正すべく天に還すために――。

この強靭な猛撃をまともに浴びれば、結愛は瞬時に消滅してしまうだろう。
だが――無数の光の槍が結愛に突き刺さる前に、その間にまばゆい閃光がほとぼしる。

「そうはさせるかよ!」

奏多が事前に、不可視のピアノの鍵盤のようなものを宙に顕現させて鍵盤を弾いていたのだ。
青い光からなるのは音色の堅牢(けんろう)堅固(けんご)な盾。その彼なりの極致は光の槍を弾いていく。

「続けて行きますよ! 降り注ぐは氷の裁き……!!」

氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の反攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。

「大丈夫か、結愛」
「はい、奏多くん」

奏多と結愛は会話を交わすことで、感謝の念と次なる連携を察し合う。

「『破滅の創世』様……」

リディアは攻撃を防がれたことよりも、奏多が結愛を救うために割って入ったことに動揺していた。

「どうして……どうして……その人間を庇うんだ……? その人間は『破滅の創世』様の記憶を封印した一族の者だ」
「……っ」

そう吐露したリディアの瞳と奏多の瞳が重なる。その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。
リディアの瞳はあまりにも深く、吸い込まれそうだったからだ。

「本当は言いたいことがあるはずだ。卑劣な手段によって人の器に封じ込められ、神の魂の具現としてありえざる形の生を受けてしまったことへの怒りや恨みをその神魂に溜め込んでいるのだろう」

リディアが発した発露は奏多の神意を確かめるような物言いだった。

「俺が言いたいこと……」

その申し出に即座に対応するのは、今の奏多には酷な要求であった。
しかし、不意に頬が冷たいような気がして、奏多は手を当てて見る。すると何故か、しっとり濡れていた。

俺、何で泣いているんだ……?

怪訝に思う心とは裏腹に、奏多は言葉を吐き出す。それは神託とも取れるものだった。