「いや、亡霊にしたこと関連さ。まあ、分かっていると思うけど、俺の能力が蒼天の王アルリットに奪われたり、最悪、俺が死んでしまうと――」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。
そう言わんばかりに、ヒューゴは事実をさらりと告げる。

「当然、おまえも死ぬことになるからな」
「なっ!」
「えっ?」

あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、慧と観月は大きく目を見開いた。

「こいつが死ぬと、俺も死ぬっていうのか……?」

思わず、息が詰まる。
慧は当惑し、その言葉の意味を飲み込むのに時間がかかった。

「そうさ。浅湖慧、貴様を生き返らせたのは俺なんだからな」

空白。
あまりにも唐突な……ヒューゴの宣言に、奏多と結愛の思考が真っ白に染まってしまった。
数秒経って、ようやくひねり出せた言葉は微妙に震えていた。

「そ、それって……この人の身に何かあったら、慧にーさんが……」
「はううっ……」

奏多と結愛は混乱する頭で、どうにか言葉を絞り出す。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。

「そうさ。今の『破滅の創世』様にとって、お兄様の生死は重要だろう」 

奏多の姿を認めてから、ヒューゴは薄く笑みを浮かべて言った。

「えっ? ……お兄様?」

それはただ事実を述べただけ。
しかし、ヒューゴの言葉は、奏多には額面以上の重みがあった。

「浅湖蒼真にとって、浅湖慧は唯一無二のお兄様なんだからな」
「蒼真……?」

奏多が目を瞬かせると、慧は照れくさそうにほんのりと頬を赤くした。

それは知らない人の名前。

奏多はヒューゴが発した言葉の意味を理解できない。
これからどうすればいいのか、確固たる解答もまだ出ていない。
でも――何故か、懐かしい響きがした。

『どんどん大きくなるな、慧と蒼真は』
『ふふ、本当ね。このまま、蒼真がずっと生きていてくれて家族四人で過ごせたら何もいらないわ』

どこからか優しげな誰かの声が聞こえてくる。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚があった。

『慧にーさん、慧にーさん!』
『つーか、蒼真、あまり無理するなよ』

兄弟は公園を燥いで駆け巡り、そのたびにどうでもいいことで一喜一憂する。

誰かに生きた証を見てほしかった。傍にいてほしかった。
――それを望んだのは誰の心だったのだろうか。

だけど、願わくば見て見たかった。
この胸の奥底を灼く焦燥にも似た、けれどより甘やかな感情の正体は何なのかを。